郷土博物館で「渋谷の東京オリンピックと丹下健三」展 初公開の青図やスケッチも
2020年東京オリンピックの開催まで約半年。1964(昭和34)年に開催された東京オリンピックでは、選手村や国立代々木競技場、渋谷公会堂などが建設され、渋谷はその中心的な舞台であった。では、今回の大会ではどうだろうか。
前回大会で競泳、バスケットボール会場として使われた「国立代々木競技場(第一体育館・第二体育館)」が改修工事を終え、2020年の今大会でもハンドボール(オリンピック)、バドミントン(パラリンピック)、ウィルチェアーラグビー(パラリンピック)の会場として使われることが決まっている。建築家・隈研吾氏が設計した「新国立競技場」と共に、渋谷が誇るオリンピックレガシー「国立代々木競技場」にもきっと多くの人びとが会期中に来訪することだろう。
さて夏季大会の開催が迫る中、白根記念渋谷区郷土博物館・文学館では現在、特別展「渋谷の東京オリンピックと丹下健三」を開催している。設計者・丹下健三によるスケッチや書簡、図面のほか、建築過程の記録写真、記録映像など、国立代々木競技場」に関連する100点以上の資料がそろう。
会場内は「基本設計時のスタディ模型」「基本設計時の構造検討」「実施設計」「国立代々木競技場施工」「変貌する渋谷」「代々木競技場の行く末」と時系列的に展示。
1961年、丹下研究室のメンバーが各々作ったスタディ模型をブラッシアップしながら、「巴」「渦巻」型のデザインに練り上げていく過程や、2本の柱にワイヤーロープをかけた「高張力による吊り屋根」のアイデア実現に向けた構造検討、設計図(1階平面図、断面図、大屋根寸法図)の原寸大コピー、高い技術力が要求された清水建設(第一体育館)、大林組(第二体育館)の建設時の工事写真などが掲出。
「50mプール、飛び込み台を備え、15,000人を収容できる吊り屋根構造の建物」、世界に類例のない競技場建設に向け、丹下健三をはじめ、工事関係者がいかに情熱を持って取り組んでいたのか、当時の仕事ぶりがうかがえる展示内容となっている。
清水建設が制作した記録映像「屋内総合競技場本館―建築技術記録」(25分30秒)では、試行錯誤をしながら、前代未聞の吊り屋根構造の難工事にチャレンジした様子がカラー映像で残されている。竣工は大会開催の僅か1か月前、昼夜問わずの突貫工事であったという。
初公開となるのは、丹下氏が手帳に描き残した代々木競技場に関するスケッチ。日ごろ、「口伝」でスタッフ間と仕事進めることが多く、スケッチを描くことはあまりなかった。代々木競技場に関するスケッチもごく僅かで、貴重な資料の一つといえる。
五輪後の施設活用は、今回の東京オリンピック・パラリンピックでも大きな課題となっているが、同展では「代々木競技場の行く末」という切り口から、五輪後の施設利用についても紹介している。 広く国民にスポーツを普及するという観点から、競泳会場であった代々木第一体育館は五輪後、プール、アイススケートリンクとして一般開放を行ったが、収益面では苦戦を強いられる。五輪開催から10年以上を経た1977年、改修が一切行われず施設の劣化が目立ち始めたのに業を煮やし、丹下が自ら要望書を作成し、国会議員や施設関係者に向けて改修の必要性を訴えている。同展でも丹下が提出した要望書が展示されている。
その後、80年代に入ると代々木競技場の状況が一変する。テレビと連動して、春の高校バレーの会場として活用を始めたほか、人気歌手のライブコンサートが行われるなど、イベントスペースとしての需要を高めていく。五輪後の競技施設の維持費捻出が課題となっているが、その中で代々木競技場は成功している施設の一つといえるだろう。
建築ファンの間では、オリンピックレガシーとして「代々木競技場を世界文化遺産へ登録してはどうか」という声も出始めているという。五輪開催で再び脚光を浴びる「国立代々木競技場」について、同展を通じて改めて学んでみてはいかがだろうか。
会期は3月22日まで。
「国立代々木競技場と丹下健三」
〇会期:2020年1月25日(土)〜3月22日(日)11時〜17時(入館は16時30分まで)
※月曜日(祝日の場合は直後の平日)
〇場所:白根記念渋谷区郷土博物館・文学館
〇料金:一般100円、小中学生50円
〇公式:https://www.city.shibuya.tokyo.jp/shisetsu/bunka/shirane_index.html
編集部・フジイタカシ
渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。