銀座線渋谷駅の歴史と新ホーム
現在進行形の渋谷駅再開発の大きな柱は、鉄道3つの大移動だ。
1.2013年3月16日、東急東横線地下化
2.2020年1月3日、銀座線渋谷駅移設
3.2020年初夏(予定)、JR埼京線ホームの移設
3番のJR埼京線ホーム移設以外は、既に大移動が終了している。1つ目の「東横線 地下化切替工事」は2013年3月15日深夜、東横線終電後から翌朝始発までの僅か3時間半で、渋谷駅〜代官山駅間の地上線を地下線に切り替えるという神わざだった。まさに歴史に残る工事といえるだろう。その後、かまぼこ屋根の渋谷駅地上駅舎と高架橋の跡地には、渋谷ストリーム、渋谷スクランブルスクエア東棟がそれぞれオープンしている。
渋谷川沿いを走る東急東横線(2012年9月19日撮影) 下=東横線地上線跡にオープンした渋谷ストリーム
●東横線が一夜で地下化、代官山地下鉄切替工事(2014年3月掲載)
2つ目の大移動は、先日1月3日に新設されたばかりの東京メトロ銀座線渋谷駅だ。従来のホームを表参道側に約130メートル移動し、明治通り直上に新たなホームを開設した。最後3つ目は、五輪開催前までに「新南口」にあるJR埼京線ホームを山手線の隣に並べる形で移設し、乗り換えをスムーズにする計画だ。「再開発」というと大規模商業施設ばかりに目がいってしまいがちになるが、渋谷駅再開発の場合は、キャパシティを越えている「交通インフラの整備」のウエイトが大きい。
さて3つの鉄道大移動の中から、今回は新設されたばかりの「銀座線渋谷駅」がどう変わったのかを具体的に見ていきたい。が、その前にそもそも銀座線渋谷駅がどんな経緯でできたのか、その歴史から振り返ってみたい。
|地下鉄主導権争いの末、渋谷・浅草間が直通運転に
東横横浜電鉄(現、東急電鉄)の五島慶太氏は、1927(昭和2)年に東横線の渋谷と神奈川間を全通させる。これに伴い、渋谷は都心と郊外をつなぐ交通結節点の要として重要な役割を担う。次に五島氏が目を付けたのは、山手線の内側と郊外をつなぐことができる「地下鉄」だった。日本の地下鉄は1927年、早川徳次氏が率いる東京地下鉄道が上野と浅草間を開通させたのが始まり。その後、線路を伸ばし、1934年には新橋まで全通させる。これに刺激を受けた五島氏らは東京高速鉄道を立ち上げ、1938年に渋谷と虎ノ門間に地下鉄を通し、東横店西館(当時・玉電ビル)3・4階に銀座線渋谷駅ホームを設けて使用を開始する。谷地形である渋谷駅は、隣駅である表参道駅と標高差が18mもあることから、地下鉄ながら建物3・4階にホームを内包する珍しい構造となった。
五島氏は渋谷から銀座・浅草方面へ乗り入れを実現するため、東京地下鉄道の早川氏に新橋駅での連絡を提案するが、それを完全に拒絶。早川氏は品川ルートで京浜電気鉄道(現、京急急行)への乗り入れを画策するなど、両社間でし烈な対立が勃発する。五島氏は強引に敵対的買収に踏み切るが、最終的には政府が間に入って仲裁。国が出資して「帝都高速交通営団(現、東京メトロ)」を設立し、1941年から営団地下鉄の運行を始める。現在、銀座線は渋谷・浅草間の直通運転を行っているが、その誕生の背景にはし烈な主導権争いの歴史があった。
|M型アーチ状のフォルムが特徴の新駅舎
ざっと歴史を振り返ってみたが、話を新しい銀座線渋谷駅ホームの移設に戻そう。今回のホーム移設の一番の理由は、駅開業から82年を経て、建物、設備等を含めてかなり老朽化が進んだこと。1日22万人(2018年)の乗客数を誇るターミナル駅にもかかわらず、エレベーターやホームドア、トイレが未設置のほか、デパートと一体化した特殊な構造のため、他路線への乗り換えが複雑で不便だったことなどが挙げられる。
さらにホーム幅が狭く、通勤ラッシュ時には十分なキャパシティが取れず、改札外まで行列ができてしまうことも大きな課題であった。五輪開催時には、さらなる乗降客数の増加が見込まれ、このタイミングでのホーム移設はマストだったといえるだろう。
では新設された銀座線渋谷駅は、どんな点が新しくなったのだろうか?
一番の変化はホームそのものが表参道側に130メートル移動し、明治通り直上に新設されたことだ。明治通りから外観を見ると、M型アーチ状のユニークなフォルムが目立つが、その中に駅舎が内包されている。
内観は、柱のない広々としたホーム空間が特徴で、アーチ構造の屋根鉄鋼が連続的に並び、まるで巨大なクジラや恐竜の体の中にでも入ったような気分が味わえる。外光が駅舎内まで差し込み、駅全体は開放的でとても明るい。
次に機能面を見てみよう。従来の銀座線渋谷駅ホームは、乗車(神戸屋キッチン側)と降車(伊東屋側)が異なる2面2線の相対式ホームであったが、新しいホームは1面2線の島式ホームに変更。2面あったホームを中央1つに集約したことに伴い、ホーム幅を6メートルから倍の12メートルに拡幅している。
旧ホームは乗車と降車が異なる上、改札口が5カ所あり、渋谷に不案内な人が乗り換えに戸惑うケースも少なくなかった。新ホームを島式、明治通り上に移動したことで、改札口を先頭車両側と最後尾車両側の2カ所に集約し、乗車も降車も同じホーム・改札口が使えるようになったのは、大きな変更点といえる。
東京メトロで唯一設置がなかったトイレも、「明治通り方面改札(渋谷ヒカリエ側)」の2階に多機能トイレが新設された。
また2020年度内には、反対側の「スクランブルスクエア方面改札」側にも一般トイレの設置を予定し、計2カ所になる。エレベーター、ホームドアはまだ稼働していないが、2020年度内に整備が予定されている。現段階でエレベーターが必要な場合は、渋谷スクランブルスクエア内のエレベーター利用が可能である。
もう一つ、「明治通り方面改札(渋谷ヒカリエ側)」2階の多機能トイレの向いに「 電源カウンター」が用意されている。電車を待ちながら、ケータイ充電やPCなど、ちょっとし作業をこなすこともできそうだ。2階のやや奥まったスペースであるため、気づいていない人も多いと思うが、緊急時にぜひ立ち寄ってみてほしい。
|新ホーム移設でラッシュ時の混雑が高まる!? JR新改札で緩和も
さて、1月3日から供用を開始した新ホームであるが、朝ラッシュ時の混雑が以前よりも高まっているという指摘もある。特に井の頭線からの乗り換えの際、以前まではJR玉川口近くの階段を上れば、すぐであったが、新たな改札口が渋谷スクランブルスクエア、渋谷ヒカリエ側に集約されたため、JR中央改札方面に向かう大階段あたりが大渋滞を引き起こしているという。
その混雑混和・分散のため、銀座線旧降車ホーム(伊東屋側)は現在も連絡通路として利用が可能となっている。
おそらくは五輪後、東横店西館の解体工事が本格化するまでは、「旧降車ホーム」がそのまま使えるのではないだろうか。
さらに1月29日には、渋谷スクランブルスクエアと直結するJR渋谷駅中央東改札口の供用も始まる。
中央東改札口から銀座線改札口は近接していることから、29日以降はJRから銀座線への乗り換えは、中央東改札口の利用が一気に増えるだろう。そうなると、井の頭線からJR中央改札口までの渋滞が少しは緩和されると期待したい。
再開発途中の渋谷駅は新旧施設が複雑に融合し、一つ便利になっても、他の新たな課題も浮上してくる。すべての課題が解決されるまでには、しばらく時間がかかりそうだ。
編集部・フジイタカシ
渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。