新商業施設のキーワードは「屋上空間」の利活用
今秋冬の渋谷は11月1日の「渋谷スクエア」、22日の「渋谷パルコ」、12月5日の「東急プラザ渋谷(渋谷フクラス内)」と大型商業施設が続々開業し、まち全体が大きな賑わいを見せている。
「渋谷スクランブルスクエア」は駅上立地の利便性を生かし、感度・グレードを兼ね備えた品ぞろえで大人をターゲットとし、「渋谷パルコ」は任天堂直営ショップ、ポケモンセンターなどのサブカルフロアや、怪しく猥雑な雰囲気を持つ地下のフードフロアなどを充実し、かつてないチャレンジングな試みを展開。さらに「東急プラザ渋谷」は若者の街・渋谷で、あえて「シニア層」をメインターゲットにした店づくりを行うなど、各施設ごとにターゲットやテナントリーシングに工夫を凝らした独自色を打ち出している。
その一方で、3館に共有しているのが「屋上スペース」の活用だ。
今でこそ屋上スペースは珍しくないが、戦後、焼野原になった東京では他に高い建物がなく、遠くまで見渡せる「デパートの屋上」はエンタテイメントの一つであった。渋谷でいえば、東急東横店東館(昭和9年築、地上7階)の屋上がそれに当たる。昭和26年頃、東館と玉電ビル(現在の東急百貨店西館)の屋上を結び、子ども向けのアトラクションとして、空中ケーブルカー「ひばり号」が運行していたのをご存じの人もきっと多いことだろう。まさに屋上を遊び場にした好例の一つだ。
その後、高度経済成長期の頃には、デパート屋上に「遊園地」が続々オープンし、デパートはレジャースポットへ変貌。デパートのレストランでお子様ランチを食べ、屋上遊園地で遊ぶ…というのは、まさに「昭和の幸せ」を絵に描いたような憧れの家族レジャーの光景と言って過言ではない。ところが、あれだけ盛況を博した屋上遊園地も、昭和の終焉と共に廃れていく。こうした背景には、家庭用テレビゲームの台頭や、消防法改正に伴い屋上面積の半分を避難区域として確保することが義務付けられ、大型遊具が設置できなくなったことなどが挙げられる。いつしか、採算の合わなくなった屋上を閉鎖するデパートや商業施設も増え、同時に屋上に対する私たちの興味や関心も薄れていく。
|スクランブル交差点を「真上」から楽しむという新たな提案
それから数十年を経て、渋谷の中で「屋上」に再び脚光が当たったのは、2018年4月に「109MEN’S」が「MAGNET by SHIBUYA109」に大規模リニューアルしたタイミングである。
それまで一般公開していなかった屋上スペースを、展望台「CROSSING VIEW(クロッシング ビュー)」として開放した。というのも毎日、国内外から多くの観光客が、「渋谷スクランブル交差点」を見るために訪れているにも関わらず、それをもっと楽しむための観光コンテンツが今まで全くなかった。そこでマグネットは、真上から渋谷スクランブル交 差点を見下ろせる好立地に目を付け、それまで遊休地であった「屋上スペース」を「展望スポット」として変身させる。
地上レベルでは見られない「インスタ映えするスポット」として話題を呼び、国内外の観光客らを中心に一躍人気の展望スポットとなった。
|東京を360度パノラマビューで一望できる「渋谷スカイ」
地上約30メートルの「マグネット」に続き、今年11月1日に開業した「渋谷スクランブルスクエア東棟」にも、渋谷最高峰の地上約230メートルの屋上スペースに展望空間「渋谷スカイ」がオープンした。
スクランブル交差点を行き来する一人ひとりの姿や動きを間近に感じることが出来る「マグネット」に対し、渋谷スカイからの眺めは、まさに「スカイ」の名に相応しく、まるで航空写真かのような圧倒的な高さに驚かされる。
真上から渋谷スクランブル交差点を楽しむという点では、マグネットのほうが迫力を感じるかもしれない。が、渋谷スカイの魅力は、何といっても、東京の街全体が一望できる「360度パノラマビュー」であろう。
既に上った人も多いと思うが、屋上スペースを囲む壁がすべてガラスであるため、視界を遮るものが一切なく、まるで天空を歩いているような不思議な浮遊感を覚える。
大晦日の31日には、渋谷スカイで初開催となるカウントダウンイベント(22時〜翌2時まで)、元旦には初日の出営業(5時30分〜8時まで)も行うという。多くの人びとでごった返す渋谷スクランブル交差点のカウントダウンを、文字通り高見の見物と洒落こむのも悪くはありませんね。
|路面から立体街路を歩いて上れる「渋谷パルコの屋上」
11月22日オープンした新生・渋谷パルコにも「屋上スペース」がある。
同建物は、地下1階〜地上8階・10階の一部を商業フロア、10階の一部と12階〜18階には「デジタルガレージグループ」のオフィスが入居。パルコの屋上スペースは最上階ではないものの、商業フロアとオフィスフロアの境となる中層階の10階に設けられている。
屋上庭園「ROOFTOP PRAK(ルーフトップパーク)」と呼ばれる同スペースは、芝生や木々が植えられている植栽スペースとデッキから構成。
スぺイン坂側の1階から建物に沿ってらせん状に「立体街路」が設けられ、館内を通らずとも路面から徐々に歩きながら屋上まで上ってくることができる。「屋上」という山頂を目指し、トレッキング感覚でパルコ山に登ってみるのも楽しいかもしれない。
47階の渋谷スクランブルスクエアに対し、10階のパルコの屋上スペースは数字だけ聞くと見劣りするかもしれない。が、公園通りの坂上に立地する高台のため、駅方面を見下ろす形で渋谷の街を見渡すことができ、また一味違う渋谷の風景が楽しめる。
写真中央にニョキと建っているのが、渋谷ヒカリエ(左)、新しくオープンした渋谷スクランブルスクエア東棟(右)である。
|くつろぎとラグジュアリ―な屋上空間が広がる「シブニワ」
旧東急プラザの跡地に開業した「渋谷フクラス」の屋上スペース(17・18階)にも、東急プラザ渋谷のルーフトップガーデン「SHIBU NIWA(シブニワ)」が誕生している。
シンガポールや台湾、フランスなどで人気を誇るエンターテイメントレストラン「CÉ LA VI」(セラヴィ)も併設し、同スペースは公共空間とレストランなどで構成。
植栽を多用した17階の公共空間には、 テーブルやイス、18階にもソファーや家具、ハンモックなどが設置され、くつろぎとラグジュアリ―な空間が広がる。
17階からは渋谷駅西口、渋谷スクランブルスクエア、六本木・東京タワーなどJR山手線の内側(東)が見渡せる。
一方で18階からは、道玄坂や南平台合面などJT山手線の外側(西)の眺望が開け、天気が良い日には富士山と出合うこともできる。
渋谷スクランブルスクエアの屋上スペース「渋谷スカイ」(当日2000円)やマグネットの屋上展望台「CROSSING VIEW」(入場料600円)は有料であるが、渋谷パルコと渋谷フクラスの屋上は公共空間であるため、いつでも「無料」で上れる点もうれしい。冬場のため、屋上スペースに上るのはやや勇気がいるが、素晴らしい眺めを見れば、きっと寒さもすっ飛んでしまうはずだ。再開発に伴い、「屋上」の利活用が進む渋谷の新しい魅力をぜひ体感してみてほしい。
最後にもう一つ加えると、来年の五輪開催前までには、屋上公園である「宮下公園」もオープンする。
現在、巨大なリングが縦長のスペースに設置され、徐々にその全貌が見え始めている。詳しい発表はまだだが、来年も渋谷の「屋上」から目が離せそうにない。
編集部・フジイタカシ
渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。