日本の原風景が残る「明治神宮御苑」、花菖蒲、蓮の花の競演する6月がおすすめ
「都会のオアシス」というと、ちょっとチープな感じもする。が、明治神宮内にある「明治御苑」は古き良き日本の原風景が残る、まさにその表現にぴったりなスポットといえる。そこで今回は、「明治神宮御苑」の魅力を紹介したいと思う。
そもそも明治神宮を知っていても、「明治神宮御苑」を知らない人は案外多いのではないだろうか。場所は明治神宮の御社殿からほど近く、大鳥居から御社殿に向かう参道の途中に御苑北門の入り口がある。もともとこの土地は、江戸時代初期に加藤家、その後、井伊家の下屋敷の庭園で、明治維新以降に宮内省が所轄する御料地となり「代々木御苑」と呼ばれた。この地の自然や景色を気に入っていた昭憲皇太后のため、明治天皇は苑内に御茶屋「隔雲亭(かくうんてい)」や茅葺屋根の「四阿(あずまや)」、花菖蒲を植えた「菖蒲田」などを造ったという。また、病気がちの皇太后のため、少しでも運動ができるようにと熊笹の間を縫い、小径(こみち)がくねくねとした回遊歩道を設けるなど、皇太后に対する想いのこもった美しい庭園として知られている。
地図を見てもらえば分かるように、苑内の一番の特徴は「南池」と「菖蒲田」の水辺スペースだ。昨今パワースポットとして人気の高い「清正井(きよまさのいど)」から湧き出た水を引いた「菖蒲田(しょうぶだ)」、さらにそこから「南池(なんち)」に流れ注ぐ。
ちなみに「南池」を満たした水はその後、竹下通りから1本入った暗渠となっている「ブラームスの小径」の下を流れ、キャットストリートの隠田神社近くで渋谷川の水源の一部として合流している。渋谷川というと、どぶ川イメージが強いが、その源流はとても清らかな湧き水であることが分かる。
さて、「清正井」が潤す「菖蒲田」は、1893(明治26)年に明治天皇が昭憲皇太后のために植えさせたもの。江戸時代、花菖蒲の育種家として大変有名だった松平定朝(さだとも)が品種改良した「宇宙(おおぞら)」「九十九髪(つくもがみ)」「仙女洞(せんにょほら)」など、「江戸系」といわれる花菖蒲を中心に150品種1500株がここに植えられている。
5月下旬ごろから6月下旬まで花を咲かせる花菖蒲は、ちょうど今が見頃。林苑職員の調べによれば、6月11日(水)に3,527輪だった花は、6月12日(木)に4,418輪を数え、一気にボリュームが増している。濃い紫・薄い紫・青・純白・ピンクなど、色とりどりの花菖蒲は、今週末にピークを迎えそうだ。
1年の中でも花菖蒲が鑑賞できるのは梅雨時期の今だけ。取材に行った11日(水)は梅雨の合間に青空が広がり、多くの国内外の観光客やアマチュア写真家、風景をスケッチする人などで菖蒲田は賑わっていた。
続いて、「菖蒲田」に隣接する「南池」を見てみよう。南池には「御釣台」というデッキスペースがあり、ここから明治天皇が釣りを楽しまれたそうだ。
ただ、聞くところによるとなかなか釣れず、なんとか陛下に魚を釣らせるために鯉や鮒を放流したというエピソードも。池の中には確かに大きな鯉がたくさん泳いでおり、きっと当時、放流した鯉が繁殖して増えたものだろう。
また池には現在、花菖蒲と同じくシーズンを迎えている蓮の花が咲いている。ピンクや白の大輪は何とも繊細で美しい。まさにフォトジェニックな花といえる。
ちなみに蓮の花は、花菖蒲よりもシーズンが長く8月末ごろまでは楽しめるという。
池の奥にはうっそうと生い茂る森が見える。明治神宮の森は100年前に植えられた「人工の森」であることはよく知られているが、御苑のまわりの雑木林は、武蔵野の面影を残す原生林なのだという。もともと加藤家、井伊家の下屋敷から御料地と、開発とは無縁の土地であったことから、大都会の渋谷の中で手付かずの自然が残されていたのだ。
東京に居ながらも、ここを訪れたことのない人はきっと多いことだろう。ぜひ、花菖蒲と蓮の花が両方見られる今の時期に、出かけてみてはいかがだろうか。懐かしい風景に心が癒され穏やかになるはずだ。
6月中の入苑時間は8時〜17時(土・日は18時まで)。料金は御苑維持協力金として500円。
明治神宮
http://www.meijijingu.or.jp/
編集部・フジイタカシ
渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。