「ダンジョン」と揶揄される渋谷駅地下は、なぜ迷うのか?
再開発が進み渋谷駅周辺の風景は、どんどん変わっている。ただ、変化しているのは地上ばかりではない。大きな商業施設の建設工事と共に地下空間もだいぶ変わり、歩き慣れた場所にも関わらず迷ってしまう。特に地下空間は地上とは異なり、目印になる大きなランドマークがないため、一度迷うと一気に方向感覚を失い、自分が今どこに居てどこに向かっているのか全く分からなくってしまう。渋谷駅の地下構内で右往左往した経験がある人もきっと多いことだろう。
| なぜ渋谷は新宿よりも分かりづらい!?
ダンジョン、ラビリンス……と渋谷駅が揶揄される一番の要因は、縦移動にあると言われている。考えてみれば、地上3階に銀座線、2階に山手線・埼京線・湘南新宿ライン、井の頭線、地下3階に半蔵門・田園都市線、地下5階に東横線・副都心線と、地上3階から地下5階までの縦空間に計4社9路線が乗り入れているのだから、仕方が無いともいえる。
では、世界一の乗降客数を誇る「新宿駅」はどうだろうか?
5社12路線が乗り入れる巨大な駅であるが、「渋谷駅のように分かりにくい」という話はあまり聞かない。その要因には駅そのものの構造に大きな違いがある。
埼京線・新宿湘南ラインの1番線の埼京線から16番線の中央線・総武線まで、JR新宿駅はボーリングのレーンのようにほぼ横一列に並んでいる。ホームから1階下るか1階上りさえすれば、あとは横移動のみ。16番線まであっても、数字を追いながら歩きさえすれば、目的のホームに辿り着くことが出来る。非常に分かりやすい。
一方で用地が狭く谷地形である渋谷駅は、新宿のような横長の駅を作るわけにはいかない。そこで限られた用地の中で9路線もの乗り入れを実現するためには、どうしても縦方向に拡張せざるを得なかったというわけだ。
| エッシャーの「だまし絵」を思わせる階層構造
駅構内に掲出されている「渋谷駅構内案内」を改めて見てみよう。やはり複雑な案内図であるのは間違いないが、同時にまるでエッシャーの「滝」の絵のような違和感があることに気が付く。下記の赤い囲み部分に注目してもらいたい。
「渋谷ヒカリエ」を地下に下り、出口15番から地下鉄に接続する「渋谷ヒカリエ1・2改札」は「B3F」に位置している。ところが改札口から、ちょっと右に移動した「宮益坂中央改札」付近は「B2F」と表記されている。その右上の「道玄坂改札」付近も「B2F」と記載されており、階層の異なる「B3F(渋谷ヒカリエ方面)」と「B2F(宮益坂、道玄坂方面)」が同一フロア上に混在しているのだ。
エッシャーの「滝」は、建物の高所から低所へ水が流れ落ち、その流れを辿っていくうちに、いつの間にか「元の高所」に戻ってしまうという「だまし絵」である。まさに渋谷駅構内案内図もエッシャーの絵のごとく、「B3F」を手でなぞっているつもりが、なぜか「B2F」に行き着いてしまう。これが「だまし絵」なら、存在しそうでしない不思議な絵ということで済まされるのだが、渋谷駅ではそうはいかない。
なぜ同一フロアにも関わらず、歩いているうちに階層まで変わるのだろうか。
実際にB3Fの「ヒカリエ改札口」から「宮益坂改札」方面へ歩けば、その謎がすぐに解ける。約30〜40メートル続く通路は軽い傾斜がかかっていて、その通路右側には「動く歩道」が設置されている。「動く歩道」を降りると足下はフラットとなり、間もなく「宮益坂改札」に到着する。と同時にフロアの階層は「B2F」に変わっている。
つまり、この上り坂の高低差が「1階層分」に相当するのだろう。構内案内図を見ている限りでは、B3FとB2Fが一見フラットな通路でつながっているように見えるのが、実際に歩いてみるとそうではないことがよく分かる。一般的には同じフロアを歩いていれば、同じ階層だと思いがちだが、坂が多く「スリバチ地形」と言われる渋谷駅においては、注意が必要であることが分かる。これがダンジョン、ラビリンス……と呼ばれる渋谷駅の一因になっているのだろう。
| 続々増える出入口番号が混乱を招く
さてもう一つ、私たちの頭を錯乱させるのが、渋谷駅地下の1〜16番の出口表記である。もともとは道玄坂から渋谷警察署方面に向かって順次番号が付けられていたが、昨今駅周辺の大規模再開発に伴って出入口の移設や新設が増え、ルールや規則性が崩れている。
たとえば、宮下公園向かいの「渋谷地下鉄ビル」出口が「13番」であるのに対して、「14番」は駅にほど近い「宮益坂下交差点」出口を指す。隣り合う番号のはずが、出入口は決して近くない。番号からエリアやゾーンを想像し難いのも、駅の利便性や回遊性を阻む大きな要因といえるだろう。
| 今秋、渋谷の案内誘導サインが生まれ変わる!
こうした渋谷駅が持つ不便さを解消するため、東横線・田園都市線・半蔵門線・副都心線渋谷駅は今秋11月、駅地下出入口番号を変更すると同時に、案内誘導サインや案内マップの一新も図るという。出入口番号の見直しは、1977年の新玉川線(現・田園都市線)渋谷駅地下鉄駅の開業以来初めての取り組み。
今回導入を行う新しい渋谷駅出入口番号は、渋谷駅の大規模再開発が完全に終了する2027年度の「将来のまち」を見据えて、渋谷のまちをA〜Dの4つのエリアに大別。
JR山手線を縦の境界線として考えたときに、左上に位置するハチ公広場を含む道玄坂方面を「Aエリア」、左下に位置する新商業施設「渋谷フクラス(今秋開業)」や再開発中の桜丘町方面を「Dエリア」。その一方、JR山手線の右上に位置する渋谷ヒカリエを含む宮益坂方面を「Bエリア」、右下に位置する渋谷警察署方面を「Cエリア」として、新たにエリア制を導入する。アルファベットと数字の組み合わせによる表記で、おおまかな行き先をエリア別に想起しやすくさせ、回遊性と利便性の向上を一気に高めると期待される。
各エリアにおける出入口番号の割り当ては、今後の再開発などによる出入口の新設なども考慮して2019年夏頃までに決定するという
2020東京五輪を控え、今まで散々揶揄されてきた渋谷駅がどう変わるのか、期待して待ちたい。
ただ1つお願いしたいのは、現行の「ハチ公前広場」出口の8(ハチ)番だけは変えていただきたくない。「A8」出口として、ぜひ残していただけることを切に願うばかりである。
編集部・フジイタカシ
渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。