渋谷を舞台にした映画その4
「Wiz/Out」
現在、ユーロスペースにて映画「Wiz/Out(ウィズアウト)」がオールナイト上映されています。物語は、大学の仲良しサークル(男性4人、女性3人)で出掛けたキャンプから始まります。ケータイも繋がらない山奥の中で、冗談を行ったり、はしゃいだりと、よくある大学生たちの風景。翌日、楽しかった合宿を終え、帰り支度をする7人でしたが、肝心の車のバッテリーが上がってしまい動かない。そこで、4人が助けを求めて山の麓まで歩いて下りたところ、そこは生活感が残りながらも誰一人いないゴーストタウンと化した町が・・・。慌てて、山小屋に戻る4人、ところが居残り組の3人の姿さえも既に消えていました。何か異変が起こっていると察知した4人は、町に乗り捨ててあった車に乗り、急いで東京へ。そして、一行が目にした風景は、誰もいない東京、渋谷の街。人で溢れかえっているはずの渋谷の街を“誰か”を求めて、彼らは彷徨い始めます・・・。
監督は長編映画初挑戦の園田新さん。弱冠29歳の若き監督は、自らの学生時代の留学経験で実感した日本の大学生たちが抱える虚無感のようなものを作品にしたかったそうです。厳しい受験戦争を勝ち残ってきた学生たちが夢だった大学に入って、自身の目標を見失う。将来への漠然とした不安や焦りを抱え、自分が本当にやりたいことは何か、一見、ちゃらちゃらした学生たち、でも、街から人が消え、その笑顔が消えたときに見える本当の自分とは・・・。
SFホラー的なストーリー展開の中で、監督自身が伝えたいメッセージが明確にあります(詳しくは園田監督のインタビューをご覧下さい)。もともと園田監督が映画に目覚めたキッカケは、学生時代に深夜にテレビ放送をしていたウォン・カーワァイ監督の「恋する惑星」をたまたま見たことだったそうです。確かに「恋する惑星」や「天使の涙」の手法で見られた、いくつかのストーリーがパラレルに進みながらも、すれ違い、交錯する構成や、さらにクリストファー・ドイル氏の酔うような独特な映像を思い起こさせる手持ちカメラの多用は、ウォン・カーワァイ作品の影響を少なからず感じさせます。
渋谷を舞台にした理由は、人で溢れた街でありながら、なぜか孤独を感じさせる街であったから・・・。いわば、渋谷は希薄な人間関係の象徴であり、現代日本の縮図のような街なのかもしれません。人のいない渋谷の街の映像はCGを使わず、まだ始発の動いていない早朝3、4時を狙ってロケを行ったと言います。いつも、音、映像や人で溢れかえり、活動的に見える渋谷が、なぜかこの映画の中では風、湿度や温度を全く感じず、生命力のない無機質なものに映ります。こうした二面性は、登場人物たちの表の顔と内面ともシンクロします。普段、ほとんど見ることのできない「人のない渋谷」の風景はスゴイです。
ネタバレするので、あまり詳しくは言えませんが、エンドロールが流れ、最後の最後に観客として観ている私たちをも巻き込むような演出も見逃せません。スクリーンの外が現実か、それとも中が本物なのか、そんな困惑と恐怖を煽ります。決して長編初作品とは思えぬ、「ストーリー+映像+音楽」を巧みに作り上げる園田監督の力量と才能を感じさせる作品でした。今後の活躍に大いに期待のかかる監督の1人ではないでしょうか。
今回の「Wiz/Out」は、星3つです。★★★☆☆
編集部・フジイタカシ
渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。