■見出し・渋谷の歴史発祥の地に残る往時の面影
・歴史の息吹を受けて生まれつつある新しい個性
・エコロジカルな活動は街の「すき間」から生まれる
・文化施設が充実し散策にはぴったりの東エリア
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渋三・東エリアでは、NPO団体の拠点やオーガニック系のカフェが点在するなど、エコロジカルな活動が活発だ。どうして、この地域でそうした活動が次々に始動するのだろうか。自然派カフェ「キミドリ」をプロデュースした「アースガーデン」代表の鈴木幸一さんに話を聞いた。また、文教地区であり、文化施設が充実する東エリアの散策スポットを紹介する。
渋谷発の地域通貨「アースデイマネー」が徐々に浸透し、市民権を獲得しつつあるが、その活動がスタートした場所は渋谷三丁目だった。NPO法人「アースデイマネー・アソシエーション」代表理事の嵯峨生馬さんが中心となって発行したアースデイマネーに、いち早く賛同したのが渋谷川沿いに位置する複数のカフェ。その根底にあったのは、ボランティアの輪を広げて渋谷川の清掃活動を推進したいという思いだという。また、渋三・東エリアには、自然派立ち呑みBar&お弁当Cafe「キミドリ」や、アースガーデンの主催するイベントなどにも出店している「SUNDALAND CAFE(スンダランド・カフェ)」など、「エコロジカル」なカフェが少なくない。そのほか、「100万人のキャンドルナイト」の呼びかけ人やスローライフの提案をしている辻信一さんによるNGO団体「ナマケモノ倶楽部」の事務所も渋谷三丁目にある。
「キミドリ」を拠点にゆったりと
このエリアから地域社会や地球環境への貢献を目指す自主的な活動が次々に立ち上がるのは、どうやら偶然ではなさそうだ。「キミドリ」をプロデュースし、2004、5年の「アースデイ東京」では事務局長を務めた鈴木幸一さんはこう話す。「『アースデイ東京』の会場である代々木公園から原宿、表参道、そして渋谷三丁目・東を通り、代官山に抜けるような“渋谷外縁”のエリアではエコロジカルな活動の拠点が増えています。渋谷三丁目には金王八幡宮があるからか、大規模な商業開発が行き届いていないがゆえの『ものごとが起こるために必要なすき間』があると思う」。
「フジロックフェスティバル」の出店運営や「渚音楽祭」のプロデュースなど、数々のイベントを作り上げてきた鈴木さんは、今後の渋三・東エリアについてこう展望する。「今はまだ個々の活動が集まっている状況ですが、まるで冬の間に力を蓄えていた桜のツボミが春になって一斉に咲くように、何かコアになるイベントなどがあると一気に動きが活性化するのではないか。そのためにはもっと仲間を増やしたい。この辺りで物件を探している人がいたら紹介しますよ(笑)。まずは『キミドリ』を拠点に根を下ろすように着実に動いて、駅前の開発が落ちつく4年後ぐらいにどうなっているのかが楽しみですね」。街なかにたくさんの「すき間」がある渋三・東エリアは、他のエリアに比べて通りを行き交う人々のスピードがゆったりとしている印象を受ける。そんな余裕から、未来へとつながる大局的な視線や柔軟な発想が生まれるのではないだろうか。
キミドリ |
東地区を歩くと、渋谷とは思えないほど閑静で落ちついた雰囲気に驚かされる。この地区の一部が文教地区に指定されており、周辺には國學院大學に加え、実践女子学園中学校・高等学校や区立常磐松小学校など多数の学校が密集しているのが理由のひとつだ。元々、常磐松のあたりには皇室の御料地や牧場などがあり、その敷地内に学校などが建てられている。そのため目立った商業施設が見当たらず、さらに、文化施設が充実しているのもこの地域の特徴だ。1975年に区議会議員の故白根全忠氏より寄贈を受けて開設され、2005年にリニューアルした「白根記念渋谷区郷土博物館・文学館」は、渋谷の歴史や文学に関する様々な資料を集めた施設。文学館では、渋谷に住んだ文学者を居住した順に紹介するとともに、各作家の渋谷に関する文章を掲載している。晩年、常磐松に居を構えた志賀直哉のこんな言葉も展示されていた。「繁華な所に近い割りには静かだ。(中略)夜など、品川の海からボウーと汽船の汽笛が聞こえて来るのも却って静かな感じがする」(『熱海と東京』より)。50年前、この辺りは品川から汽笛が聞こえるほどの静けさに包まれていたのだろう。
心静まる緑と静寂のエリア
現在、白根記念渋谷区郷土博物館・文学館では、渋谷区に在住した江戸時代の国学者・賀茂真淵の生涯を辿った特別展を開催している。同館の近くには賀茂真淵の門弟である塙保己一を記念した史料館・温故学会があリ、本展は二館の共催となっている。このように白根記念渋谷区郷土博物館・文学館では、國學院大學といった近くの学校や研究機関、渋谷区にゆかりのある文学者の遺族らと協力して展示を開催するなど、地域との関わりの中で活動を続けている。こうした文化施設に立ち寄って教養を深めるのもよし、さらに金王八幡宮に加え、渋谷氷川神社や東福寺、宝泉寺など点在する寺社を巡るのもよし。緑と静寂に包まれた渋三・東エリアの散策は、心静まる情緒に満ちている。
渋谷区郷土博物館・文学館 住所:渋谷区東4-9-1 TEL:03-3486-2791 |
塙保己一史料館・温故学会 住所:渋谷区東2-9-1 TEL:03-3400-3226 |
頼朝お手植えの「金王桜」金王八幡宮の社務所の横に区の天然記念物に指定されている一本の桜がある。種類は長州緋桜に属し、八重と一重の桜が同時に咲く珍しい桜で、江戸時代の観光案内には必ずといって良いほど記されていたそうだ。この桜は、1189年、奥州から帰った源頼朝が渋谷金山丸の忠誠を謝し、鎌倉の館の桜を移して「金王桜」と名付けたという。そんな名木と聞けば、春には花見客が集まるのは当然。金王八幡宮では、事前予約制で花見客を受け入れている。だが、神聖な境内とあって、カラオケなどの騒がしい行為はご法度。桜の傍らに佇む芭蕉の句碑「しばらくは花のうへなる月夜かな」の心境に浸りつつ、風情あふれる花見を楽しんでみては。
江戸郊外三大相撲が行われた氷川神社渋谷氷川神社は、江戸郊外三大相撲の一つとして人気を集めた金王相撲が行われていた場所。毎年9月の祭日には、近在の力自慢の素人力士が集まり大勢の観客で賑わったという。2002(平成14)年には、隣接する氷川の杜公園に土俵が新設され、こけら落としには当時の横綱・武蔵丸が訪れた。現在も、夏休みなどに地区の少年相撲大会が開催されている。