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青山学院大学や国連大学が近いためか、宮益坂周辺には古書店や出版社が集まるほか、半世紀以上も営業を続ける老舗商店が点在することで、多様な文化が集積されている。アカデミックな雰囲気漂うこの地域で、文化の発信を担う人々に話を聞いた。
アートを軸にカルチャーを発信し続ける出版社

出版社や古書店が集まる宮益坂上交差点

数多くの出版社のオフィスがあることが、宮益坂に集積するカルチャーに厚みを加えている。“詩歌文芸をビジュアルで魅せる”をコンセプトに掲げる文芸アート誌『華音(かのん)』、30代以上の女性をターゲットとしたライフスタイルマガジン『Rosalba(ロザルバ)』、さらに詩歌や絵画などの書籍の出版やイベント開催を通じて、“アート”を発信する美研インターナショナルもその一つ。

同社は2006年に宮益坂上に移転する以前は、霞ヶ関のオフィス街に事務所を構えていた。「アートを扱う会社として、多様なカルチャーが存在する渋谷の環境は大きなプラスになるだろうと考えて移りました。スーツ姿が目立つ霞ヶ関とは違い、渋谷にはさまざまな年齢層の人々が行き交い、街が生き生きとしているのを感じます。通りを歩いているだけでカルチャー情報が入ってくるのは仕事にも大いに役立っています」と、広報および編集を担当する田村理恵さんは話す。

出版社が集まる背景

美研インターナショナルの定期刊行物
『華音(かのん)』と『Rosalba(ロザルバ)』

移転後は、青山にあるプロモ・アルテ ギャラリーでの展覧会のプロデュースや、こどもの城で子どもたちと詩歌にふれあうイベントを開催するなど、地域性を生かした活動を充実させている。デザイン会社をはじめ、周辺にクリエイターが集まっていることも、大きな利点になっているそうだ。「宮益坂周辺にはギャラリーなどクリエイティブな環境が点在しているので、今後も連携を強化したい」と、プロジェクトデザイナーの星野美和さんが話す。

さらに宮益坂には、月刊誌『髪化粧』などヘアデザインをテーマとした雑誌や書籍を刊行する髪の文化舎に加え、坂上に近い映画館シアター・イメージフォーラムにはダゲレオ出版という出版部門がある。また、2007年8月に移転するまでは、「シネマアートン下北沢」というミニシアターの運営なども手がけるアート系出版社のアートンが宮益坂上に本社を構えていた。
青山とほど近いこのエリアには、最新のカルチャー情報があふれ、クリエイターの感性を刺激し、じっくりとモノを考えるのにはふさわしい落ち着いた街並みがある。それが宮益坂周辺に出版社が集まる要因となっているのかもしれない。

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美研インターナショナル
「Art Project Company」として、美術系雑誌や書籍の刊行に加え、絵画や詩歌の展覧会、色彩の見本市「COLOR SESSION」など多様なイベントを通じてアートを発信する出版社。

住所:渋谷区渋谷1-7-7 住友不動産青山通ビル9F 
電話:03-5766-9291

画材屋、古書店……。知的好奇心をくすぐる老舗が点在

ウエマツ画材店
日本画に用いられる「岩絵の具」がずらりと並ぶ

宮益坂を歩いていると、まるで時間の流れが止まったかのような歴史深い商店を見かけることがある。流行の移り変わりが早い渋谷にあって、半世紀以上も続く老舗が今も数多く残るのは、このエリアの大きな特徴だ。
明治通りに面した宮益坂下交差点に「13500色」という大きな文字の書かれたビルが建っている。この場所で戦前から70年近くも営業を続けるウエマツ画材店だ。さらに、坂の中程には額縁を扱うウエマツ額縁店という別店舗もある。ともに、仕事や趣味で絵画に関わる人には、おなじみの老舗だ。「宮益坂は通りの幅が広過ぎず、人がスッと横断できる。他の大通りに比べると、等身大の良さがあるかもしれませんね」と、この街で生まれ育った代表の上田邦介さん。

日進堂 小川はかり店

戦前から営業を続ける老舗商店

さらに戦前から続く商店には塚田金物店があるほか、現在は営業をしていないが小川はかり店の店構えは長年の風雪を耐えしのいできた風格を今も漂わせている。また、植村写真スタジオは、戦前に青山で開業し、戦災によって宮益坂に移転してきた歴史を持つ。「以前は4階建てのビルで、屋上に上れば原宿駅を見渡せるほど見晴らしが良かったですよ」と、3代目社長を務める植村栄一さん。スタジオで撮影する写真も変化しているそうだ。「昔は背筋を伸ばしてカチッとした表情の写真を望む方が大半でしたが、今は自然体で笑顔交じりの写真を撮る機会が増えました」

坂上には、日本の昆虫学の先駆者である故志賀夘助さんが開業した志賀昆虫が今も残るほか、巽堂書店と中村書店という2軒の古書店が並んでいる。「昔から青山学院大学の教授や学生さんの来店が多いですね。以前はこの近くにも他に数軒の古書店がありましたが、今は2軒のみになってしまいました」と、巽堂書店の書店員さん。

新渋谷駅を中心とした大規模な再開発計画が進むなか、新たな舵取りを求められている宮益坂。ウエマツ画材店の上田さんは、こう語る。「街が変わっていくのは宿命ですが、合理性や機能性だけを追求していては、街としての特色が失われて面白みがなくなる。昔ながらの景観や建物など、これからも残すべきものは残すといった”文化的な”街づくりを進めてほしいですね」。

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ウエマツ画材店
戦前より日本画を中心に、洋画、水彩、アクリル画など、多彩な絵画材料を扱う老舗画材店。自社内で絵画教室も開催している。

住所:渋谷区渋谷2-20-8 TEL:03-3400-5556
営業時間:10時〜19時(祝日は11時〜18時)日曜定休

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ウエマツ額縁店
デッサンや水彩、油絵、日本画、版画をはじめ、さまざまな作品にぴったりの額縁をスタッフが提案してくれる。

住所:渋谷区渋谷2-19-15-106 TEL:03-3409-3900
営業時間:10時〜19時(祝日は11時〜18時)日曜定休

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植村写真スタジオ
戦前に青山で開業。戦後すぐに宮益坂下交差点付近に移り、現在まで営業を続ける。成人式や入学式、卒業式、七五三、ポートレイトなど幅広く対応している。

住所:渋谷区渋谷1-14-14 植村会館1F TEL:03-3400-2511
営業時間:10時〜19時(日・祝日は18時30分まで)木曜定休

全国的に珍しい御嶽神社の狛犬宮益坂の途中にある御嶽神社に参拝した人は、社殿前の一対の狛犬が見慣れぬ姿をしていることに気付くはずだ。これは全国的にも非常に珍しいニホンオオカミの狛犬で、延宝年間(1673〜1861年)に鎮座されたといわれている。もっとも、当初の狛犬は関東大震災や空襲によって甚だしく損傷したため、現在は原形をモデルとして作られたブロンズ製のもの。御嶽神社は1570(元亀元)年に興った社で、宮益地域の発展の中心になってきた。今では参道は階段式で、地上3階に境内のあるモダンな造りになっているが、かつては境内に桜の大木があって地元の人たちが花見を楽しみ、子どもたちの格好の遊び場でもあった。現在も、毎年9月(今年は15・16日)の例大祭に加え、11月の酉の日には酉の市が開かれるなど、地元の人々の“心のふるさと”として重要な存在となっている。

東京都が建てた最初の鉄筋アパート御嶽神社とは通りを挟んで向かいに位置する宮益坂ビルディングは、ひときわ風格のある外観で周囲に存在感を放っている。このビルは東京都が建設した最初の鉄筋アパートで、1953(昭和28)年、妙祐寺の跡地に完成した。エレベーターや風呂、ベランダなどを備える当時としては最新鋭の造りで、新聞でもたびたび取り上げられて話題になったという。当初から11階建ての建物の下層階は店舗、上層階は住宅として使われていた。このビルに事務所を構えるウエマツ画材店の上田邦介さんは、「全体的にゆったりとした造りで廊下が広い設計は今のビルには見られません。無駄のない簡潔なデザインも、とても気に入っています」と話す。通りに面した入り口から中を覗いてみるだけでも、近年のビルとは造りがまったく異なることが分かって興味深い。