BUNKA X領域


鉛筆のような細長い雑居ビルに雑多な飲食店やショップがひしめく渋谷センター街。なかには、ちょっと怪しげなところもあるから、とくに雑居ビルの階上には目もくれずに通り過ぎている人も多いのでは。だけど、少し勇気を出して入ってみると、通りの喧騒からは想像も付かない心地良い空間に出会えることも──。
雑居ビルの階上に開放的なギャラリースペース

畫廊場景
雑居ビルの中にある開放的な空間

渋谷駅側からセンター街に入って、HMV渋谷を少し過ぎた右側に、外壁の全面にド派手なペインティングを施した雑居ビルが異様な存在感を放っている。地下1階から2階はラーメン屋だが、それより上の階の看板は見当たらない。だが、実は、このビルの4・5階にNPO法人コンポジションが運営する現代アートギャラリー「GALLERY SCENE(ギャラリー・シーン)」がある。

ギャラリーに足を踏み入れると、明るい白でまとめられたインテリアに国内外のアーティストたちの作品が飾られている。センター街のど真ん中に、こんな場所があったことがまず驚きだ。若手アーティストが中心とあって価格帯は数万円〜10万円くらい。手の出ない額ではない。2007年6月、GALLERY SCENEを開設したコンポジションの代表理事を務める寺井元一さんは、こう話す。「渋谷センター街は、若者のカルチャーの中心にも関わらず、これまでに一軒もギャラリーがなかった。我々が扱っているストリート色の強いアーティストの作品は渋谷のイメージにもぴったりだから、この場所にギャラリーを開けたことに、とても満足しています」。

屋外から屋内へ──

寺井元一さん
( NPO法人「KOMPOSITION」代表)

もともとコンポジションは、渋谷を中心とした街の壁面をボランティアで清掃し、合法的な壁画キャンパスとしてアーティストに開放する「リーガルウォール」などの活動を続けてきた団体だ。寺井さんがギャラリーを開設した理由を聞いた。「これまでは駆け出しのアーティストが草の根的に活動できる場を増やしたいという思いで屋外での取り組みを充実させてきました。その活動が一段落した今年の初め、草サッカーを通じて成長した少年がスタジアムへとステップアップするように、屋外で活動していたアーティストが屋内へと移行できる空間を模索していた。その思いが『GALLERY SCENE』として形になりました」。その陰には、コンポジションの活動に深い理解と共感を示し、フロアを提供している飲食店経営会社ムジャキフーズの協力がある。

大きな志とともに船出したGALLERY SCENE。この先のビジョンを聞くと、「リーガルウォールをもっと充実させ、街で見かけて気に入ったアーティストの作品を『GALLERY SCENE』で購入できるというサイクルを確立すること」と、寺井さんは力を込めて語ってくれた。

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畫廊場景
2007年6月、センター街のど真ん中、渋ビルヂング4・5階にオープン(入り口は5階)。通常は国内外の若手アーティスト10〜20人の作品を展示・販売。不定期で特定アーティストの企画展も実施する。

住所:渋谷区宇田川町24-6 渋ビルヂング5階
電話:03-5428-0821
営業時間:13:00〜22:00(月曜休廊)

喧騒とは無縁の空間で寛ぎのひとときを過ごす

BarTube
店内のスタジオで様々なイベントが催されている

渋谷センター街の外れ、こぢんまりした洋服店やレコードショップが入居する古い雑居ビルに、一風変わったバーがある。店内で動画を撮影し、「YouTube」をはじめとした動画投稿サイトに、その場で投稿できる設備を備える「BarTube(バーチューブ)」がそれだ。この店を経営する神田敏晶さんはIT業界などを中心に活動するビデオジャーナリスト。

以前は同じ場所で、友人の招待で入店できる「リアルSNS」をコンセプトにした「dotBAR(ドットバー)」を開いていたが、2006年11月に現在の形態に切り替えた。そのユニークな発想が話題となり、YouTubeのCEOや、「セカンドライフ」を経営するリンデン・ラボ社のCEOも、来日時に来店している。

とはいえ、渋谷センター街の奥まった場所にある雑居ビルの一角、しかも店のコンセプトも少々マニアックとあって、店内は渋谷センター街らしからぬ、落ち着いた雰囲気だ。客層の年代は20代中頃から40代、職種はIT系企業の社員やクリエイターが多いというのも、このエリアの中心層からややずれている。「それだけに、ゆっくりと飲んでいただけますよ。さらに、動画を撮影するも良し、頻繁に開催するイベントに参加するも良し、この空間を自由に使ってください」と、店長代行の吉川光さん。

--雑居ビルにある和み空間

雑居ビルには多様な空間が存在する

BarTubeの隣には、ビッグバンド・ジャズのグループ「ザ・スリル」のドラムを務めるGensho(ゲンショウ)さんが経営するバー「beat cafe」がある。ロックミュージックを聴きながら、グラスを傾けられる店だ。

一方、BarTubeの向かいの雑居ビルには、「屋上カフェ」のハシリとなった「クワランカ・カフェ」がある。屋上の狭いスペースを巧みに使ったアンティークな空間で、温かみのある手づくり料理を味わえる、渋谷センター街には貴重な和みのカフェだ。さすがに屋上までは、通りの喧騒は届かない。

さらに渋谷センター街には“渋谷で最初のバー”といわれる「渋谷 門(もん)」があり、同じビルの地下一階には、メニュー名などがすべて映画のタイトルになっているバー「八月の鯨」がある。歩調をゆるめて少し視点を雑居ビルに向けると、渋谷センター街の楽しみ方は大きく違ったものになる。

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BarTube
世界で初めて動画の撮影・投稿をコンセプトとしたバー。「セカンドライフナイト」「ロックサタデイ」など、週4回ほどのペースでイベントを開催する。

住所:渋谷区宇田川町33-13 クスハラビル3F-C 
TEL:03-5458-6226
営業時間:21:00〜24:00(日・祝日は定休)

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beat cafe
ビッグバンド・ジャズ「ザ・スリル」のドラムを務めるGenshoさんが経営するバー。国内外のミュージシャンが来店することも。

住所:渋谷区宇田川町33-13クスハラビル3F-B 
TEL:050-1238-4088
営業時間:19:00〜翌5:00

渋谷駅前にあって変わらない一角大勢の人でにぎわうセンター街。その入り口に位置する大盛堂書店の4階に、昭和35年より創業している切手とコインの専門店「大盛スタンプコーナー」がある。公園通りに大盛堂書店があった頃から店内の一角を使用し、2005年の同書店の閉店・移転に伴い、センター街入り口で営業を続けている。お父さんからお店を受け継いだ茅野努さんは、渋谷生まれの渋谷育ちで、激しく変わる渋谷駅前をずっと見てきた。「この界隈は移り変わりが早くて、前に何が建っていたかすぐ忘れちゃう。その中にあってこの一角は不思議に古いお店が残っているよね」。確かに大盛堂書店のある一角は、西村フルーツ、三千里薬品、鰻の松川、蕎麦の更科など、老舗が元気に軒を構えていて、センター街の喧噪の中にもどこか落ち着きの感じられるエリアだ。

センター街の入り口で切手選び大盛スタンプコーナーは、古くからの常連さんのほか、若い人の姿もちらほら見えるという。「コレクターじゃなくても、若い女性の方がおしゃれな切手を貼って手紙を出したいということで探しに来ることもあります」。カウンターを覗くと、古い貴重な切手などに混じって、ディズニーやアニメのキャラクターものやブルース・リーの肖像など、値段も手頃でユニークな柄の切手がたくさん揃っている。「渋谷は昔からお洒落で粋な人が多かった」と茅野さん。渋谷で手紙を書くことがあった場合、趣向を凝らした切手で送り主の遊び心や相手への心遣いを表すのも悪くない。

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大盛スタンプコーナー
切手・コインの専門店として昭和35年に創業。日本最初の切手から最近の記念切手まで、コインも古い日本の貨幣から外国の珍しいお札などまで、豊富に取り揃えている。

住所:渋谷区宇田川町22-1 大盛堂書店4F 
TEL:03-3463-3640 営業時間:10:30〜20:00