1962年東京都世田谷区生まれ。渋谷区桜丘町在住。高校卒業後、自衛隊に入隊し、朝霞で3年間を過ごす。渋谷の不動産会社勤務を経て独立し、1998年に渋谷駅前不動産ツインズプランニングを立ち上げる。渋谷さくら育樹の会、渋谷消防団などにも参加。
最近、渋谷を歩いていてミツバチに出会ったことはありませんか? 実は渋谷のど真ん中でミツバチを飼育し、“純渋谷産”の蜂蜜を採取する「渋谷ミツバチプロジェクト」が進行中です。人と人、人と自然をつなぐきっかけにしたいという思いでプロジェクトを始めたのは、桜丘町で不動産業を営む佐藤勝さん。小さなミツバチは、渋谷をどのように変えていく可能性を秘めているのでしょうか。
--渋谷ミツバチプロジェクトの概要を教えてください。
桜丘町のさくら通りにあるビルの屋上に、ミツバチの巣箱4つを設置し、約12万匹のミツバチを飼育しています。これまでに8回ほど採蜜を行っており、計約120キロの蜂蜜を採取しました。このプロジェクトを始めたのは、2011年3月8日(ミツバチの日)。実は、渋谷の象徴である忠犬ハチ公が天に召されたのは1935年3月8日であり、偶然ながら、縁深いものを感じています。
ミツバチは、大体、半径3、4キロを飛ぶ習性があり、ここで飼育するミツバチたちは代々木公園や明治神宮などから蜜を集めてきます。最もたくさんの蜂蜜が採れるのは、桜の季節。さくら通りをはじめ、渋谷のあちこちに桜がありますし、目黒川沿いの桜からも蜜を集めてきているようです。季節によって花が異なりますから、蜂蜜の味も異なります。肝心の味は……これが驚くほど美味しいんですよ。市販の大量生産の蜂蜜は水あめなどが含まれていますが、渋谷で採れる蜂蜜はまさに純度100%の花の蜜。挨拶代わりに近所の方々に配ると、「渋谷でこんなに美味しい蜂蜜が採れるなんて」と、誰もが驚かれます。
--渋谷で採れた蜂蜜はどのように流通しているのでしょうか。
プロジェクト開始の3日後、東日本大震災が発生しました。被災者の方々を少しでも元気 付けたいと思い、4月30日、それまでに採取した蜂蜜を被災地の福島県南相馬市にプレゼントさせていただきました。渋谷の方々に初めて蜂蜜を提供したのは、私も参加しているNPO法人「渋谷さくら育樹の会」が主催した8月7日の「桜丘フェスタ」です。パンや洋菓子を提供する老舗菓子店パリジャンの協力により、シュークリームに蜂蜜をかけて提供したほか、ミツバチや巣板を入れたガラス張りのショーケースを展示。その場で子どもと一緒に「蜂蜜絞り体験」を行い、採れたての蜂蜜をパンにつけて試食してもらうなどして、渋谷ミツバチプロジェクトの活動について広く知っていただくきっかけとしました。今後も月1回ほどは、蜂蜜を使ったイベントを開催したいと思っています。さらに渋谷の菓子店などと連携して、渋谷で販売されるスイーツなどにも積極的に使っていきたいと考えているところです。
--そもそも渋谷ミツバチプロジェクトを始めたきっかけは?
私は28年間、渋谷で不動産の仲介業を営んでいます。近年、増えているクレームが「冷房があまり効かない」というもの。いわゆるヒートアイランド現象により、これまでと同じ出力の空調では冷房が十分に効かなくなっているのです。かといって空調の出力を上げると、外に排出される熱風が増え、街がどんどん熱くなるという悪循環を招いてしまいかねません。そんな問題意識から、みんなで街全体の環境を変えていく努力が必要と考え、空いた時間を利用して一人で屋上緑化に取り組み始めました。今、巣箱を置いている屋上には、ナスやキューリ、ゴーヤ、ブラックベリー、シソ、レモン、ブドウ、キウイ…など、まさに緑に覆われ、トンボや蝶など虫たちも戻ってきました。こういう環境が渋谷に広がっていけば、街の環境は少しずつですが確実に変わっていくと信じています。
--ミツバチの飼育を始めて気付いたり、驚いたりしたことは?
ミツバチの習性って、本当に面白いです。まず、3キロ先に飛んでいって、自分の巣箱に正確に戻って来られるのが不思議だと思いませんか? ミツバチは新しく巣箱を置くと、巣を飛び立ち、30分間くらい、巣箱の上空を旋回して位置情報をインプットするんです。だから、昼間、ミツバチが飛び立っている間に、巣箱の位置を5メートルでも動かすと、もう戻ってこられなくなってしまうんです。それから、いわゆる「8の字ダンス」で美味しい蜜のある場所を伝え合う姿も微笑ましいですね。現代の生活は、何でも人間がコントロールできると思ってしまいがちですが、自然を相手にすると、それが大きな勘違いだと気付かされます。最初はミツバチを「飼っている」という意識でしたが、ミツバチにとっては「ここで生きている」のであり、彼らの習性にのっとって行動しています。雨が降れば飛び立ちませんし、飛んで行った先で長雨に降られれば、戻ってこられず、死んでしまいます。私たち人間はミツバチが棲めるようにサポートすることはできますが、彼らを完全にコントロールすることはできません。そういうことをこれまでの経験から学びました。