石原久真子(アメイズビューティー・代表取締役CEO)
北海道旭川市出身。カネボウ化粧品勤務を経て、フリーのメイクアップアーティストとして活動。ニューヨーク滞在時にコスメブランド・NARSの斬新さに衝撃を受け、帰国後、NARS JAPANに入社。2005年、退社してアメイズビューティーを設立。同年冬、徹底した消費者目線で開発したオリジナルブランド「ヒートジュエルリップグロス」を発売し、20〜30代の女性を中心に大きな話題となる。同じコンセプトで開発した「ヒートジュエルマスカラ」も女性のニーズを的確に捉え、ヒット商品に。オリジナルブランドの企画・販売のほか、女性向け商品開発のコンサルティング、PRなども行っている。
自らの感性をベースに、同年代の女性のニーズにぴったりと合ったオリジナルブランドのコスメを次々に世に送り出すアメイズビューティー・代表取締役CEOの石原久真子さん。渋谷にオフィスを構え、「渋谷的感性」に敏感になることで、トレンドの動向を捉えているという石原さんが、この街の魅力や特性、そして起業に至った経緯を語る。
--まずは、渋谷との出会いについて聞かせてください。
初めて渋谷を訪れたのは、小学校5年生くらい。私は北海道の旭川で生まれ育ちましたが、その頃、とんねるずのバレンタインハウスなど、原宿のタレントショップがすごく流行っていましてね。どうしても行きたくて、一人で東京にやって来て、親戚のおばさんに連れて行ってもらったんです。やはり街並みが旭川とはぜんぜん違うから驚きました。子ども心にとくに印象に残っているのが、高層マンションがあちこちに建っていたこと。当時はきっと不動産バブルだったのでしょうね。高校生くらいの頃はギャル雑誌をよく読んでおり、渋谷といえば、センター街にカリスマ女子高生やチーマーがいるというイメージでした。
--今の渋谷には、どのようなイメージを抱いていますか。
最先端の感覚があふれている、という感じ。私はニューヨークが大好きで何度か行っているのですが、渋谷は日本のニューヨークと言えるのではないかと。ニューヨークって、ハイソなエリアもあれば、ギャルっぽいエリアも、ダウンタウンやハーレムのような場所もあるけど、全体的におしゃれ。同じように、渋谷もエリアによって雰囲気は違いますが、どこを歩いても刺激がいっぱいあり、とてもおしゃれだと思います。ただ、ニューヨークに比べ、異文化交流の機会が少ないのは残念ですね。ニューヨークには、いろんな人種や立場の人と出会えるクラブやバーがたくさんありますが、渋谷にはニューヨークほどはありませんよね。
--渋谷に会社を構えている理由を聞かせてください。
私は、自分のカラーがそれほど強くない人間だと思っています。さまざまなタイプの人がいますが、私はいろんな種類の感性が注入されて、はじめて何かを創出できるプロデューサータイプではないかと。たとえば、椎名林檎さんのような強烈なカラーのある人は、きっと他の誰にもなれませんよね。そういう意味で、私は誰にでもなれると思うんです。だから、渋谷的な感性を注入するために、この街に身を置いているというのが理由のひとつ。さらに、うちの化粧品は、渋谷にあるおしゃれなアパレルのような、日本人の女の子のリアル・クローズなイメージでありたいと思っています。だから会社の場所としては、渋谷がぴったりなんです。渋谷の中でもエリアによって雰囲気は違いますが、うちの化粧品はセンター街の女子高生をイメージするほど、ど真ん中の渋谷ではない。かといって、原宿のように個性が強すぎなくて、表参道みたいにハイソな感じでもない。となると、その真ん中あたりに位置する今の場所(渋谷区神宮前。明治通り沿い)がちょうどいいんですよね。今後、会社を移転する必要が生じたとしても、きっと、このあたりを選ぶと思います。
--やはり日頃からトレンドのチェックは欠かさないのでしょうか。
職業柄、無意識的に行っていますね。今、何が流行っているか、誰よりも早く感じているという自負はあります。それにしても、最近はトレンドの移り変わりが速いですね。その変化をいち早くキャッチするにはやはり流行発信源のストリートに目を向ける必要があります。その点、今の事務所の周辺にはお忍びの芸能人がうろうろしていたり、通りを歩く一般の人も最先端の格好をしていて、本当に勉強になりますね。
--現在の渋谷のトレンドをどのように捉えていますか。
これといった(大きな)トレンドがないのが、現在のトレンドの特徴ではないでしょうか。ちょっと前まではアイコンやカリスマといった存在がいて、そちらに流れるのがトレンドでしたが、今は女の子一人ひとりが芸能人級にかわいいので、流れる必要がないんですよ。この状況は、倖田來未さんの登場がひとつのきっかけだったかもしれません。彼女は、ファッションもダンスも努力によって磨いてきた方だと思います。従来のアイドルのような、お人形さんみたいな女の子のアイコンではありません。「女の子は、努力によって何にでもなれる」ということを体現した女性ではないでしょうか。さらに昨年、映画「セックス・アンド・ザ・シティ」が流行った背景には、欠点はあるけれど前を向く、自分の足で立つという女性像が支持されたことが大きいと考えています。こうした流れで、だんだんと芸能人と一般人との距離が近づき、今では、もはや誰でも読者モデルに手が届く時代になっている。努力すればハッピーになれるというのが、今の若い女性に最も支持されている考え方でしょう。
--今の渋谷で何かを流行らせたいと考えたら、どのようなポイントを押さえるべきだと思いますか。
「かわいい」「共感できる」「おもしろい」あたりが、いまの渋谷的感性のキーワードなのでは。ただ、ギャルの感性とか、渋谷的感性を言葉で説明しろと言われたら難しいかも。たとえば、現在、テレビCMで流れている「ゴリマッチョ」という言葉。私はこれがすごく面白いと思っているのですが、その理由を説明するのはやっぱり難しい(笑) それと一緒ですね。
--渋谷のなかでお気に入りの場所を教えてもらえますか。
以前は渋谷に住んでいたんですよ。はじめは道玄坂のマンション、その次は青学付近の表参道に。いまは、会社の荷物を置くスペースと、自宅にも仕事部屋が必要でその広さの部屋を渋谷の会社付近で借りるとものすごく高いので、下北沢に引っ越しました。下北沢も緩い雰囲気で面白いですね。自由で個性的な人たちが、そこらへんでまったりお酒を飲んでいたりして(笑)。渋谷のなかでのお気に入りは、まず、ワンコOKのお店。私は犬を飼っているので、桜丘町にあるカフェの marble(マーブル)やCANTIKには、ワンコを連れてよく行きます。あと、宮下公園前にあるcocotiは、Little New YorkやSLYといった好きなブランドが入っているので行きますね。最上階の岩盤浴もおすすめ。渋谷の夜景を見渡しながら、アロマの香りに包まれて、いっぱい汗を出していると、すごく気持ちよくてマッタリとできます。ちょっとリフレッシュしたいときには、とてもいい場所。