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KEY PERSON キーパーソンが語る渋谷の未来

渋谷を中心に活躍する【キーパーソン】のロングインタビュー。彼らの言葉を通じて「渋谷の魅力」を発信します。

渋谷は誰もが等身大で過ごせる街。“閉じた街”になってほしくない渋谷や原宿、新宿を中心に、東京の街と若者のトレンドをリアルに発信し続けるサイト「WEBアクロス」。若者のファッションの動向を分析する定番企画「定点観測」は、すでに25年以上も継続されています。今回は、サイト編集長の高野公三子さんに、渋谷の変遷や街に対する思いを伺いました。 街に大人が増え、世代のミックスが進んでいる---WEBアクロスの創刊の経緯を教えてください。
1974年、パルコに出店いただいているテナントのオーナーさんにファッションをはじめとする世の中の動向を伝えるために作成された「パルコレポート」が前身です。1977年には「月刊アクロス」として書店での販売を始め、1998年の休刊を挟んで、2000年にインターネット上で「WEBアクロス」として復活しました。
1974年といえば、その前年に渋谷パルコがオープンしたものの、まだ渋谷の街には何もなかった時代。そこで誌面では、渋谷の街を一つの“メディア”と捉えるコンセプトを打ち出しました。何故メディアなのかというと、大資本が開発するのではなく、生活する人や働く人、遊びに来る人などが関わり合い、ミックスされるなかで発展するのが渋谷の特性だと捉えたからです。 この地域が面白いのは当時からで、周辺の地域がこぞって「渋谷」と表現しがちです。今でも、原宿や恵比寿、中目黒なんかも、一緒くたになって「シブヤ」が形成されているイメージがありますよね。昔から渋谷には、周りを惹きつける“魔力”のようなものがあったのだと思います。

--WEBアクロスの定番企画「定点観測」は、どのような経緯で始まったのでしょうか。 渋谷・原宿・新宿の三カ所で月一回、若者ファッションのトレンドを観察・分析する「定点観測」は、もともとパルコが持っている“街はメディアである”というコンセプトを反映させた調査企画のひとつとして1980年にスタートしました。
当時は価値観の多様化が進み、トレンドの方向性がつかみづらくなっており、それならば街に出て若者の服装やヘアスタイル、メイク、持ち物などを観察し、それを考現学的な手法で分析することで、次の時代を予測しようということになったのです。以来、雑誌休刊中も含めて25年以上にわたって継続し、刻々と変化するリアルな街の様子を記録・分析し続けてきましたが、その間、携わったスタッフの数は約100名、さらに、撮影やインタビューにご協力頂いた方は20万人以上にも及びます。つまり、「定点観測」は、ストリートファッション(東京の若者とファッション)の主役たちの記録でもあるのです。

--渋谷を訪れる人の年齢層は変化していますか。
この1-2年は10年前の現象と似ていて、全体的に大人っぽくなっています。それには、「いつまでも若い」という価値観を持った40代前後の世代が実際に街に増えたことと、ファッションのトレンドが“大人っぽいスタイル”になっていることで、若者のファッションが大人びて見えるという二つの側面があると感じます。大人が増えたことで、近年の渋谷では世代がミックスされ、街を歩く人の多様化が進んでいます。かつては街の主役となる集団は3〜5年の周期でガラリと変わっていました。定点観測で「新しい価値観だな」と思わされる人が増えても3〜5年ほど経つと、また新しい価値観を持った次の集団が現れる。みんな大人になって世代交代していくのです。たとえば1995年頃は、スーパーモデルの日常着を真似、黒いストレッチパンツやチビリュックといったカジュアルなアイテムを大人っぽく着飾った女の子が街にあふれましたが、その次に訪れたのは、スリムな女性モノの服を身にまとった“ソフトパンク”と呼ばれる格好の男の子たちでした。もちろん、ファッションの変化はどの街にも見られますが、つねに渋谷は他の街に先駆けており、その表出も顕著なのが特徴です。そんな変化の多い街だけにタウンウォッチングを続けていても飽きることはありませんね。



渋谷の消費者は“消費偏差値”が高い。騙されそうで騙されない(笑)--渋谷の街におけるショップの変遷を、どのようにご覧になっていますか。
次々に生まれる新しいショップを、消費者がジャッジして淘汰しています。そのスピードは速く、気づかぬうちにショップがなくなっていた、ということも少なくありません。渋谷の消費者は目が肥えていて、“消費偏差値”が高いと思います。流行に敏感なので、一見、仕掛けにもすぐ飛び付きそうですが、意外と冷静だったりもする。そのため多店舗展開するショップも、渋谷店だけは他の街と異なる商品構成を採っていることが少なくありません。もちろん、大資本系のショップは実際の売上よりも“渋谷店=旗艦店”という意味合いが強いのだと思いますが、宣伝などに関わらず、渋谷では街に合わなければ客は入りません。その一方でビルの片隅にあるような小さなレコードショップが活況を呈していたりする。そうした特性が、渋谷独特の街並みを形成する下地になっているのでしょう。

--渋谷の魅力は、どのような点にあると思いますか。 多様な人たちを受け入れるキャパシティがあり、誰もが等身大で過ごせる居心地の良さが魅力だと思います。それは街が大資本に染まらずに多面性を保っていることや、クリエイティブな仕事に就く人が多い環境が影響しているのでしょう。昼間からネクタイをしていない大人がたくさん歩いていますしね。丸の内あたりから渋谷に帰ってくると、本当にホッとした気分になります(笑)。また周辺の地域との行き来が容易なところも、渋谷の面白いところです。三カ所の定点観測は同日に実施しており、渋谷で若者にインタビューしようとすると、「さっきも原宿で声をかけられた」と言われることが少なくありません。最初に原宿駅で下車して周辺をぶらつき、公園通りやキャットストリートを経由して渋谷まで歩く。渋谷の街はすり鉢状だからかでしょうか。原宿だけでなく、青山や恵比寿など、隣接する街を起点に、渋谷の街へと吸い込まれていく流れがあるのは事実です。

--最後に、渋谷へのメッセージをお願いします。
先ほどの「渋谷は等身大でいられる街」という話にも通じますが、渋谷は誰もが“主役”になれる街だと思います。だから、みんなが「オレの渋谷論」を語りたがる。そうした多様性を受け入れる懐(ふところ)を、いつまでも持ち続けてほしいですね。この先、駅やその周辺の再開発が予定されているようですが、他の大きな街に見られるような大規模開発による“閉じた街”になってほしくない。一見、ごちゃごちゃとした街並みを誰もが闊歩できる“開かれた街”を守り通してほしいな、と思っています。

■プロフィール
高野公三子さん
1992年、株式会社パルコ「アクロス」編集室に入社。「定点観測」を15年以上にわたって担当する他、雑誌・メディアの分析、若者・世代論などを通して消費者ベースのマーケティング分析に携わる。2000年秋、「WEBアクロス」開設と同時に編集長に就任。現在は、同サイトを運営するほか、外部企業からのリサーチや商品開発、トレンド分析、コンサルティング、大学や教育機関等での講師なども行っている。

WEBアクロス WEBアクロス「ストリート・マーケティング」をコンセプトに、渋谷・原宿・新宿を中心とした東京の街と、そこに集う若者をリアルにレポートするWEBサイト。前身は1974年に創刊された「パルコレポート」で、1977年に「月刊アクロス」として創刊。1980年から月一回、渋谷・原宿・新宿の三地点で若者のストリートファッションを観察・分析する「定点観測」が開始された。2000年10月に「WEBアクロス」が創刊。以来、渋谷を中心に移りゆく東京のファッション動向を発信し続けている。

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