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KEY PERSON キーパーソンが語る渋谷の未来

渋谷を中心に活躍する【キーパーソン】のロングインタビュー。彼らの言葉を通じて「渋谷の魅力」を発信します。

プロフィール

1956年福井県生まれ。関西大学経済学部卒業後、福井の家具メーカー、マルイチセーリング入社。90年に同社新規事業としてバルスを設立。翌91年、代表取締役に就任。92年、天王洲アイルに「Francfranc」1号店をオープン。96年、MBOにより独立。2002年、ジャスダック上場。その後、東証2部上場を経て2006年には東証1部に指定換えとなった。「amadana」ブランドで知られる家電メーカー「リアルフリート」取締役会長、昨年設立された「東京住宅」取締役も兼務。

「Francfranc(フランフラン)」「BALS TOKYO」などのインテリア業態を全国で展開するバルス。今年7月には、井の頭通り沿いの一角の路面に「Francfranc」旗艦店を出店しました。渋谷の真ん中に本社を置くバルスの高島社長に、渋谷の街の見方をうかがいました。

大人の街になりきれない渋谷。特に衣・食・住の「食」が弱い

--最初に渋谷の街と出会ったのは?

いやあ、いつだろう(笑)。転勤で東京に来たときだから、もう30年近く前になりますね。当時は吉祥寺に住んでいたので、渋谷には井の頭線でよく来ていましたね。

--そのころの渋谷の印象は?

今もあまり変わっていませんが、一言で言えば「若い街」という感じでした。今は商業では、大人の街ということを掲げていらっしゃる部分もありますが、大人の街になりきれないという…渋谷には若者文化的なことはあっても、やっぱり底が浅いという感じだったんですね。フォーマルな所は少なく、カジュアル。シズル感というか、そういうのがある所が非常に少ないですね。円山町辺りの一角に残っているような感じはありますが、それぐらいで、何かあまりとどまれない感じかな。いい意味での変化が、もっと欲しいと感じます。僕は仕事が終わってから、夜は何だかんだとあちらこちらに出掛けますが、渋谷で働いているのに夜はほとんど渋谷にいません。われわれの年代になると、渋谷にとどまれるものが非常に少ないと感じます。

--「若い街」から脱却できない理由は何でしょうか?

食がないと思います。衣・食・住の「食」が渋谷は弱いですね。飲食店も、店を出す場所として、渋谷はあまり思い浮かばないと思います。西麻布、六本木、青山、そういう所は思い浮かぶのでしょうが…。ファッションも大人ファッションが非常に少ない。百貨店はどちらかというと大人ファッションじゃなくアダルトな感じです。もうちょっと今っぽい、いわゆるヤングマインドを持った大人に向けたものが非常に少ないし、そういう施設もない。それが少し残念な感じがしますね。だから、渋谷に「Francfranc」は出すけども、今は「BALS TOKYO」を渋谷にという概念はあまりないです。

--渋谷の街を変えることはできますか?

街を変えるには、街づくりを牽引するような人たちと一緒にやっていかないと難しいと思います。今は若い人たちの街ですが、若い人たちはどんどん少なくなっていっているし、今のまま若い人たちだけが対象では、たぶんマーケット的にシュリンクしていくのではないでしょうか。そういう意味では、ヤングマインドを持っている大人が楽しめる街にしていかないと、つまらなくなってゆくと感じます。渋谷の周辺には、大人が楽しめる街として恵比寿もあるし、中目黒に行けばその辺にありますね。でも、渋谷だけがない。逆に言えば埋もれているのかもしれませんが、もう少し何かとどまれるところがあればいいと思います。エリア的に分かれてもいいのかとも感じます。

--その中であえて個人的に出没する場所はありますか?

桜丘の方にはたまに行きます。円山町、桜丘、神泉というか、東急百貨店の裏の方の神山町方面でしょうか。最近、神山町には面白い店がぽつぽつ出てきますね。

--数年前、本社を西麻布から渋谷に移しましたね。

渋谷に店があったので、現場に近い所に本社を移したというのが背景です。渋谷は一大商業地ですから、うちの店だけでなく昼間ぶらぶら歩いているだけでもいろんなものが見えたりします。そういう意味では非常に現場感覚がある街でいいかなと思います。メリットはやっぱり、一大商業地なので、非常に皮膚感覚的な部分のマーケティングがしやすいっていう場所ということになります。だから、昼食でも、ぶらっといろいろあちこち行きます。

後背地が非常に豊かで成熟した渋谷は奥深いマーケット

--井の頭通りに「Francfranc」の旗艦店を出しましたね?

やはり都心では渋谷・新宿・池袋が一大ターミナルの場所ですし、渋谷という街に店がないことで、お客様にご迷惑をかけていることもあったので、出来るだけ早急に、ということで場所を探していました。パルコ・パート2渋谷は諸問題で急遽退店ということになり、あまり準備する間もなかったのですが、いずれにしても渋谷に路面店を出さなければと以前から思っていました。渋谷のお客様はやはり「Francfranc」のコアターゲットのイメージに近いです。「Francfranc」は、ターゲット層が25歳の、都会に一人暮らしで住む女性を想定していますので、その像の方は非常に多くいらっしゃいます。俗に言う、F1層の方が非常に多い街だなと思いますね。

--渋谷の店のマーケットはどのようにとらえていますか?

渋谷は城南地区が後背地として控えていますので、非常に豊かで成熟しています。底が深いマーケットだと思いますから、本当にもったいない街です。街のポテンシャルを大変感じます。ですので、渋谷の商業の方がもっと大人を捉えてくれたらと思います。例えば、渋谷沿線の世帯では所得や教育水準も高く、建築や質の高いインテリア空間のある家が多いです。さらに、二子玉川や自由が丘といった、渋谷に次ぐようなセカンドライン的な街が控えていますし、横浜ともつながる所ですから、非常にその辺りも奥深い。逆に言えば、渋谷はその恵まれている環境に応えられていない街というイメージがあります。

--各地に出店されていますが、他の街と渋谷の違いはどのように捉えていますか?

センター街や109も渋谷のシンボリックな所だと思います。それ以外の所が非常に片手落ちというか、薄いという気がします。ですので、エリアによってもう少しクローズアップしてもいいと思います。線路際の「のんべい横丁」も面白いし、宮下公園ももう少しいい公園になればいいのにと思います。渋谷には、何かほっとするとか、シズル感みたいなものが、もうちょっと欲しいですね。円山町をはじめとして、昔はそういう街だったと思います。そういう良さが、何かいつの間にか消えてしまっているところが、非常にもったいないと思います。いつも色んな方と話しますが、都心部の大型開発はもう誰も求めていないのでは、と。無機的な開発よりは、ずっと従来からあるような、横丁の楽しさのようなものが、もっと今のかたちで開発されると、非常に楽しいなと思います。

--渋谷の街の可能性は、どうすれば引き出すことができるでしょうか?

すでに取り組まれていると思いますが将来像を描いた街づくり委員会みたいなものが、もう少しきちんと存在して、エリア的に分けていけばいいと思います。このゾーンはこういうエリアだとか、こっちの方はこうだとか。渋谷は谷なので、いろんな通りが集中していますから、通りによって色分けがあると思うし、その辺をもっとはっきりすると人も来やすいと思います。意外と渋谷は、「分からない」と言う人のほうが多いんじゃないでしょうか。どこかに何か「抜け感」があってもいいと思います。一番欲しいのは、シズル感です。

SHIBUYA Francfranc 外観(photo Nakasa & Partners inc.)

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