2003年、I WiSHとしてあいのりの主題歌「明日への扉」でデビュー。オリコンシングルチャートで2週間連続1位、90万枚以上のセールスとなり、一躍有名に。2005年、川嶋あいとしてソロ活動が本格的にスタート。2007年、フジテレビ系「あいのり」主題歌“My Love”、劇場版「ワンピース」主題歌「compass」など大型タイアップ曲を立て続けにリリース。昨年12月12日には、ファイナルファンタジーのキャラクター“チョコボ”が活躍する「チョコボの不思議なダンジョン 時忘れの迷宮」(任天堂Wii対応ソフト)のテーマソングで、5枚目のシングルとなる「ドアクロール」を発売。また、女優“みつきさん”の2ndシングル「瞳ひらいて」の楽曲プロデュースを行うなど、シンガーソングライターとして幅広く活動している。
シンガーソングライターを目指し、中学卒業と同時に上京した川嶋あいさん。渋谷公会堂(現・渋谷C.C.Lemonホール)でのライブを目指して渋谷で路上ライブを始め、徐々に人気を集めていく。毎日のように渋谷の路上に立ってはライブを行い、宇田川町にも住んでいたことがあるという川嶋さんにとって渋谷はまさに第2の故郷。そんな渋谷の街をどのようにとらえているのか、お話しを伺いました。
--福岡から上京後、渋谷を拠点に活動するなかで、渋谷公会堂でのライブを目標のひとつに掲げた理由は?
たまたま路上ライブを渋谷公会堂の前でやっていました。ほんとに渋谷公会堂の真ん前で…。自分の回りは全然立ち止まらなかったんですけれど、渋谷公会堂では誰かがライブをやっていたみたいで、すごく行列ができていて…。その光景を見たときに、「1年後に渋谷公会堂で絶対やりたい」っていう風に思って、それで決めました。でも、ゼロからのスタートだったので、まず交渉から始まったんです。渋谷公会堂の館長さんがいて、その方にずっと交渉しに行って「立たせてください」って繰り返していましたね。そのころから路上ライブは圧倒的に渋谷で行っていました。1,000回のうち900回ぐらいは渋谷でしたね。
--実際に渋谷の路上でライブを行って、どんなことを感じましたか。
渋谷はとにかくいろんな人が行き交っている街で、小さいお子さんからお年寄りの方まで、ほんとに様々な人たちがいる場所。だから渋谷で歌ったんです。路上では直に触れ合うことができるので、すごくいろんな出会いがありました。それまでの自分の渋谷のイメージって、とにかく華やかできらびやかで、「田舎ものの私は入り込めないな」っていうような空気を一方的に感じていたんです。でも実際は地方の人たちもすごく多く、立ち止まって聴いてくれる人たちの話とかを聞くと、恋に悩んでいたり勉強に悩んでいたり、自分の進路に悩んでいる学生さんたちがいたり、会社帰りで疲れている30代のサラリーマンの人たちもたくさん来てくださって、「ものすごくデリケートな部分がたくさんある街なんだな」って感じましたね。飲み屋街とかも結構たくさんあるので、酔っぱらいの人とかもいて、目の前で踊られたりしたこともありましたね(笑)。やっぱり孤独にやっているとほんとに恐怖しかないですし…1回1回ものすごい勇気を出して、踏ん張らないと歌えないんです。けれど、手伝ってくれるスタッフと一緒にやり始めてからは、ひたすら1,000回に向けて頑張るのみでした。いつもひとりだけ学生のスタッフの人が付いてきて、手伝ってくれたんですけれど、スタッフと出会って仲間ができたということによる安堵(あんど)感はすごかったですね。
--今、渋谷のなかでお気に入りの場所を教えてください。
胸が締めつけられるような、それぐらい大切すぎる場所はやっぱりハチ公前とかNHK前の代々木公園の辺り。電車を降りて見たりすると、ほんと路上でやっていたころがフラッシュバックする特別な場所です。また2年ぐらい前までセンター街のそばに住んでいたので、毎日毎日センター街を行ったり来たりしていましたが、センター街は人がすごく多くって、見ていてすごく楽しいですし、飽きないですね。でも早朝に結構大量のゴミがばらまかれていて、それをカラスたちがつついているのを見ると、人間の身勝手さを感じるようで嫌でしたね。そういう光景を見るだけで、うつろに感じたりっていうのもあります。あと、友達とかにも多いのですが、地方から上京してきたりする人たちの中には、やっぱり人込みには慣れないとか、いろんなものとか情報があふれすぎていてついて行けないとか、歩きづらいとか、そういったのがすごく多いんです。けれど、私も上京当時はそうだったんですが、そこで1,000回のライブをやって、その時期ほんとに密に渋谷の街と接してきて、そこに、ほかの街とは違うさみしさとか空虚なものを感じたんです。自分がストリートをやって、人と触れ合って、人間観察して感じたことだと思います。人間像的なものがほかの街とは違うなというのをすごく感じましたね。ストリートでいろんな人たちを見たり触れ合ったりするなかで、いろんなものを抱えながら生きているんだなと…。それが渋谷の街で枝分かれして絡み合っているんだろうなって感じますね。そういう街ってほかにないと思いますよ。
--渋谷の人の多さに抵抗感はありませんでしたか?
いや、ありました。まっすぐ歩けないですね(笑)。大変でした。今でも大変ですけれど…。でも、それが渋谷というのはありますね。渋谷に行くとやっぱり、さまざまな人が行き交っているので、その様子を見てしまいますし、その人たちのなかに潜むメンタルなものとかをすごい考えちゃいます。「どんな気持ちで歩いているんだろう」とか。そういう風に生きているからこその生々しさみたいなものが私は好きですし、一番渋谷に転がっているんだろうなと思います。さみしく空虚だけれど、生命力あふれる街だと思いますね。ほんとに生命力あふれていますよね。いつまでも活気ある街であってほしいですし、若い人たちがそこに自然と集まってくるような存在であってほしい。これから高いビルとかもどんどん増えて行くと思うんですけど、そういうなかで緑や公園など安心できる場所というのを、小さくてもいいので作ってほしいなとも思いますね。あと、待ち合わせするときは必ずハチ公前なので、これも残してほしいです。