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KEY PERSON キーパーソンが語る渋谷の未来

渋谷を中心に活躍する【キーパーソン】のロングインタビュー。彼らの言葉を通じて「渋谷の魅力」を発信します。

プロフィール

1954年富山県生まれ。1976年明治大学卒業後、劇団所属、および広告代理店勤務を経て、1983年立川談志門下に入門。1990年立川流真打ちに昇進する。2005年北日本新聞文化賞特別賞をはじめ、数多くの賞を受賞。現在は、全国のホールを中心に公演を行い、「今、最もチケットが取りにくい落語家」と言われるほどの人気を博す。更に、NHK総合「ためしてガッテン」、ラジオ文化放送「志の輔ラジオ 落語DEデート」、CM出演など各メディアで活躍するほか、2008年2月2日には志の輔師匠原作の新作落語「歓喜の歌」が映画化され全国ロードショー。


落語家の立川志の輔さんがPARCO劇場で1か月間連続公演を行う「志の輔らくご in PARCO 2008」が新年3日から始まった。志の輔さんが初めて渋谷で落語を演じたのは1996年。そこには、どのような思いや狙いがあったのでしょうか。公演を目前に控えた現在の心境、さらに「渋谷語」に象徴される若者言葉への持論なども含めて、奔放に語っていただきました。

来年に向けて次は何をやろうかという気持ち

--PARCO劇場で「志の輔らくご in PARCO 2008」が始まりますね。

1996年から毎年、PARCO劇場でやらせてもらうようになり、1ヶ月公演は今回で3年目になります。どういうわけだか、僕は同じことをやり続けるのが苦手な人種なんですよ。1ヶ月公演ではずっと同じ演目を続けるでしょ。これがなかなか辛い。喉にも体にも頭にも良くない。1年目が終わった時は、「よくやった、自分で自分を褒めてやろう」と、すごい達成感があったのと同時に、「こういう公演は二度とやらないだろうな」と。ところが、翌年、やっている自分がいるんですよ。それが3年目になるという。まぁどう控え目に言っても自慢しているとしか思えないから先に言っておくと、「俺にしかできないな」と(笑)。自分にしかできないことを与えて貰ったのだから、今年も頑張ろうと思いますよ。それどころか、来年に向けて次は何をやろうかという気持ちでいるのが正直なところですね。

--1ヶ月公演の難しさは、どのあたりにあるのでしょうか。

1ヶ月連続公演なんて、落語では普通じゃありませんよ。もちろん演目は舞台に上がる前に決めているけど、1か月もやっていると世の中が変わってくるんです。たとえば、1月3日から7日は松の内で、みんな頭がボーっとしていて、何でもいいから笑えればいいみたいな雰囲気。ところがワイドショーが流れ始めると、やれ防衛庁がどうした、賞味期限がどうしたと、世の中の空気が変わってくるでしょ。そうなると、こっちも落語を始める前に乗っからないといけない。そうやって、毎日、どう出たら良いかを考えるのは、1ヶ月公演の大変なところですね。あと、どうしても終盤は疲れが溜まりますね。芝居では幕が開けた時には直すところがいっぱいあって後になるほど良くなるなんて聞いたことがあるけど、落語は全然違う。それなら初めに来たほうが良いのかと聞かれれば、そうでもない。どの日だってミスはするし、毎日がライブだと思っていますから。演出家や出演者やスタッフなどがたくさんいる芝居とは違って、落語は落語家自身が演出家であり演者でしょ。自分で自分を見ながらライブでやってるという不思議な芸能なんですよ。そして、とても弱い芸能でもある。会場の雰囲気を見渡しながら話すから、ポツンポツンと席が空いているのはとても気になるんですね。「売り切れなのに、どうして空席があるんだ?」と首をかしげながらやるのが一番辛いので、チケットを買っていただいた方は、どうぞ忘れずにお出でください。意外とね、昼の部と夜の部を間違えていたなんてお客さんがいるんですよ(笑)。

渋谷で落語という不思議さが良かったのでしょう

--PARCO劇場で落語を始めたきっかけは?

以前は渋谷に落語は似合わない感じでした。もともと寄席はないし、落語にピッタリの劇場があるわけでもない。おしゃれで若者向けの渋谷に、落語をポンと入れてみたらどうなるかなと思ったんですよ。それで、渋谷、そしてPARCO劇場でやっている姿を、自分のお客さんに見てもらいたかったんですね。それが原点。そのうちに段々、普段は芝居を観ている人も来てくれるようになり、1ヶ月公演を初めてからは、毎年1万人以上のお客さんが集まるようになった。浅草で落語をやるのは似合うけど、渋谷だと不思議でしょ。それが良かったのでしょうね。今では全く違和感はなく、自分の家に誰かを呼ぶ感覚でやっていますね。

昨年の『志の輔らくご』の様子

--渋谷で落語をする時は、他の街とは心境が違うのでしょうか。

渋谷、そしてPARCO劇場でやることによって、落語がどのようにエンターテインメントになっていけるかを考え、15年間戦ってきました。落語家は屏風の前に座り道具は扇子と手ぬぐいのみ。あらゆるものを削ぎ落として成立しているから、いわゆるエンターテインメントに見えないところがあるんですよ。それを、どう変えていくか。PARCO劇場のスタッフは演劇の世界では超一流だけど、落語のことは知らない。僕が当たり前と思うことを不思議がるんですね。それだけに新しいアイデアが生まれることも多い。そんなスタッフと意見を出し合い、色々な演出を作り上げるのはとても楽しい過程ですね。ただ、1か月公演での悩みは、「去年はこうだったから、今年はこうか。なるほど、では来年は?」などと、お客さんから変化を求められること。これは、本来、落語家が背負うプレッシャーではないんですよね(笑)。PARCO劇場だからこそ、そういうエンターテインメントの面での期待感を持ってくれるのでしょう。

--近年、落語ブームが続いていますが、何か変化したことはありますか。

お客さんの頭の中を読みづらくなりましたね。以前は「見たい」と強く思う人だけが来ていたけど、今では「見ておかなきゃ」「見てみたい」という人が増えた。1ヶ月公演でアンケートを取ると、11歳から83歳のお客さんがいるんですよ。更に北海道から沖縄まで日本全国から来ていただいている。本当にうれしいんですけど、初めて落語を見る人と、これまでに嫌というほど見てきた人では、笑いどころが微妙に違う。その間を縫わなければいけないのは、なかなか大変なことです。僕は、落語は最高のサービス業だと思っています。喋りのサービスの種類や角度や分量をどれぐらいに設定するかは、毎日、お客さんを見ながら決める。それが大変であり、面白いところですね。

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