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KEY PERSON キーパーソンが語る渋谷の未来

渋谷を中心に活躍する【キーパーソン】のロングインタビュー。彼らの言葉を通じて「渋谷の魅力」を発信します。

文化コンテンツとIT企業が共生する渋谷から 次世代メディアとしてのロボットを創造する

人型エンターテインメント系ロボット「MI・RAI-RT(ミライアールティー)」の開発をはじめ、ロボットベンチャーとして注目を浴びるスピーシーズ。代表取締役の春日さんは、渋谷にオフィスを構えた理由の一つは「渋谷の街歩きから発想が生まれる」ことだと話します。MI・RAI-RTの開発の経緯や、春日さんの渋谷に対する思いを伺いました。

ロボットを「メディア」として楽しんでもらいたい

--「MI・RAI-RT」のコンセプトをお聞かせください。

MI・RAI-RTは手足の付いたパソコンと考えると分かりやすいと思います。CPUやOSが組み込まれており、無線LANを通じて専用のコンテンツをダウンロードして、歌わせたり、走らせたり、躍らせたりできる。つまり、単に歩行や走行などの動きを見るだけでなく、メディアの一つとして楽しめるのです。コンテンツはどんどん増やす予定ですし、プログラムも自作できるから、楽しみ方は限定されていません。今のところはコンシューマーへの販売とともに企業や大学からの反響が大きく、ロボットをつかって何かのテーマについて研究をしようという場合が多いのですが、もともと家庭で楽しんでもらうことを念頭に作りました。そのために今は「ロボットに何をさせるか」という重要な課題に取り組んでいます。

--具体的には、どのような課題なのでしょうか。

パソコンもMS-DOSの頃は、結局、それを使って何をするのか分からなかったから普及しなかったでしょ。それがアプリケーションの開発がどんどん進み、いろいろな楽しみ方が提示されて一般に広まった。じつはロボット業界は、かつての課題だった二足歩行をクリアしてから立ち止まっている状態です。歩けるようになったのはいいけど、それで、一体、何をさせればいいのかと迷っているんですね。だからMI・RAI-RTでは、ロボットをメディアとして使う新たなビジョンを提案しました。「人型」というのがポイントで、たとえばメールの文章を読み上げさせるのでも、箱型のパソコンから流れるよりも、ロボットが話した方が表現力があるでしょ。そのハードができあがったので、今後はソフトをより充実させる新たなフェーズに入ったわけです。

--2001年にスピーシーズを設立した経緯は?

もともと僕はソニーでAIBOの開発をしていました。それが一段落して、もっとロボットを突き詰めたいという気持ちと、当時45歳で「独立するならそろそろかな」という思いが重なって会社を辞めたんです。一方には職人に憧れる気持ちもあって、一時は靴職人になるためにイタリアに修行に行くことも本気で考えていましたが(笑)、結局、ソニー時代に培ったIT技術を生かせるロボットを開発することにしたのです。ロボット開発の歴史はまだまだ黎明期にあり、日本では開発環境も整っていません。たとえば、一台のロボットを作ろうとすると、ハードからソフトまで全てを自分で作らなければならない。そこで、もっとオープンに技術を共有できる開発環境を作りたいという思いも、設立当初からありました。

MI・RAI-RT

発想に行き詰まったときは渋谷の街を歩いてみる

--渋谷にオフィスを構えた理由をお聞かせください。

生まれも育ちも吉祥寺ということもあって、設立時には吉祥寺にオフィスを構えたのですが、そこが手狭になって2002年に渋谷に移りました。最初は宇田川町でしたが、2005年に現在の桜ヶ丘に越して来ました。渋谷を選んだのは、ロケーションが便利なことと、もともと好きな街だったから。庶民的なようで都市的でもあるところが気に入っているんです。銀座はカッコいいけど着飾って行かなくちゃいけない。新宿は着飾らなくてもいいけど、ちょっと構えてしまうところがある。その点、渋谷や吉祥寺は、ちょうど肌に合うんですよ。

--渋谷の環境から刺激を受けることはありますか。

発想を生み出すのに根を詰めて考える過程は不可欠だけど、それが表に浮かんでくるのは、ふと気の抜けたときだと思うんです。そういう意味では渋谷は僕にとって散歩しながらあれこれ考えをめぐらすのに適している街です。渋谷が面白いのは周囲が住宅街に囲まれているため、駅から離れるにつれ、落ち着いた風景へと変わっていくところ。風景に流れがあると言うのでしょうかね。渋谷は若い人が多過ぎて落ち着かないという人も多いのですが、僕は気にならないですね。むしろ、ガチャガチャとうるさい場所にポツンと佇むのが好きなんですよ。静か過ぎる場所は、思考の方向が自分にばかり向いてしまい、むしろ落ち着かない。賑やかな場所だからこそ周りから刺激を受けながら客観的な思考ができるのではないでしょうか。

--渋谷にIT企業が集積していることは影響していますか。

ええ、サーバの開発はすぐ近くの企業に依頼していますし、デザインも外苑前の工業デザイナーに頼みました。MI・RAI-RTは「メイドイン渋谷」と言えるかもしれません。もともと当社のロボットは「ロボット」と呼びたくないんですね。すごく難しい製品を作っている特殊な企業だと思われてしまうから。実際には、その開発にはサーバやアプリケーションをはじめ、IT技術が不可欠ですから、どちからというと「パソコン」のくくりに入れてほしい。そうすれば、もっと開発もスムーズになりますからね。そういう意味でもIT企業が集まる渋谷は当社に合っていますね。さらに、音楽やダンスなど、ロボットで表現するコンテンツが数多く存在することも、当社には喜ばしい環境です。是非そういったコンテンツともコラボレーションしたいですね。

--今後、渋谷には、どのような街になってほしいでしょうか。

個人的にはあまりキレイな街にしてほしくないかな。渋谷マークシティの隣に焼き鳥屋があったり、突然、怪しげな横道が現れたりする混沌さを魅力に感じているから。渋谷にはいろいろな要素がクロスオーバーするよさがありますよね。区画整理をするにしても、ごちゃごちゃとした要素が共生できる環境は残してほしいですね。

--最後に、スピーシーズのビジョンをお聞かせください。

まずは、ロボットのメディアとしての可能性を広げるのが最大の課題。アイデアは色々とあるんですよ。最近ではアーティストの新曲のプロモーションに使ってもらえないかと持ちかけたりしていますし、自分でポーズをプログラミングできるから、ゆくゆくはダンスコンテストなどを開いても面白い。もちろん多くの人からいろいろなアイデアを頂き、一緒に考えていけると嬉しいですね。パソコンが爆発的に家庭に普及したように、ロボットを取り巻く環境も5、10年後には大きく変化することを信じ、楽しみながら開発しています。

■プロフィール
春日知昭さん
1956年東京都生まれ。東芝を経てソニー株式会社へ。以来PC分野を歩む。VAIOデスクトップ事業での設計課長を経て、AIBOの部門へ異動。技術管理室長を経験。そこでの経験で、ロボットは手足の生えたコンピューターであると言う信念を得る。2001年12月ソニーを退職。現スピーシーズ株式会社を設立。研究用ロボットSPC001 の販売を開始。家庭用人型ロボットMI・RAI-RTを2006年11月から販売開始。

MI・RAI-RT
2006年9月に一般受注を開始。無線LANを通じて専用の番組コンテンツなどをダウンロードできるエンターテインメント系ロボット。歩行や走行に加え、躍らせたり、音声を流したり、多彩な機能を有する。身長約33センチ、体重1.5キロ。価格は29万4000円。
スピーシーズ株式会社
2001年12月設立。春日さんがソニー時代にVAIOやAIBOの研究開発で培った技術をロボット開発に生かそうと設立。「人型ロボット」にこだわり、研究用から家庭用まで幅広い製品を販売中。

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