渋谷文化プロジェクト

渋谷をもっと楽しく!働く人、学ぶ人、遊ぶ人のための情報サイト

KEY PERSON キーパーソンが語る渋谷の未来

渋谷を中心に活躍する【キーパーソン】のロングインタビュー。彼らの言葉を通じて「渋谷の魅力」を発信します。

世界のアーティストが注目する渋谷をアートのプラットフォームにしたい

東京都参与として都知事に文化政策を提言する一方で、国内外の若手アーティストの交流を促すトーキョーワンダーサイト(TWS)の館長を務める今村有策さん。TWSのコンセプトや設立の経緯、また渋谷という都市空間の魅力や課題を聞きました。

異質なモノの交流を促して新しいビジョンを生む。それがTWSの狙い。

--トーキョーワンダーサイト(TWS)は、どのようなコンセプトで設立されたのでしょうか。

2000年に石原都知事が都庁舎の廊下を展示場として開放し、「トーキョーワンダーウォール」という公募展を始めました。それに続く施策についてさまざまな有識者の方々と検討して、アーティストを育てる施設が必要ではないかと提案したのです。そのときに抱いていたイメージは、ユニークな教育内容で知られるロンドンの「AAスクール」でした。ここは、世界貿易センター跡地に「フリーダムタワー」を設計したダニエル・リベスキンドをはじめ、優秀な建築家を数多く輩出する世界最高峰の建築学校です。この学校では技術屋ではなく、ビジョンを持った人材を育てることを重視している。そのため、異分野の交流がとにかくアクティブなのですね。建築以外の分野の講義がとても充実しているし、構内の中心にはパブがあって、毎晩、さまざまな分野の専門家や生徒たちがビールを飲みながら議論を交わしている。新しいビジョンは、そうやって異質なものがぶつかり合って生まれるものなんですよ。石原都知事がTWSをたとえてよくおっしゃる、20世紀前半に芸術家のコミューンが形成されたパリのモンパルナスも、国内だけでなく世界中の芸術家が集まったからこそ、あれほど多くの才能が開花した。日本に目を向けると、どれだけ尖がって見える若者にも、やはり同質の中にとどまりがちなところがあるんですよね。だから、生まれや育ち、考え方、さらには宗教も異なる海外のアーティストと国内の若手アーティストが交流できる施設を創れば、面白いことになるのではと思ったのです。

--そして2001年にTWS本郷を設立したのですね。本郷を選んだ理由は何なのでしょうか。

本当は最初から今のTWS渋谷の場所で始めようかという話もあったんです。ただ、あそこは目抜き通りのど真ん中で、あまりにも目立つでしょ。だから、稲を苗床で育ててから田んぼに移すように、まずは静かな場所でTWSの基盤を整えようということになって(笑)。TWS本郷の辺りは大学も多くおおらかな土地柄だったので夜通しのクラブイベントも自由に催せたのも良かったですね。その反面、周辺に新進のカルチャースポットが少なく、TWS本郷だけがポツンと佇む状態ですから、集積効果がないというデメリットもありました。そこで、約4年が経って国内外のアーティストも集まるようになり、そろそろ渋谷の荒波にもまれても大丈夫だろうと、2005年にTWS渋谷を設立したのです。TWS渋谷では活動を街にも波及させるために、アートカフェを設けたり、アーティストが手がけたTシャツやグッズを販売するアートマーケットを併設して、新たな展開につなげています。さらに、シネマライズさんやシアターイメージフォーラムさんなど、渋谷に以前からあるカルチャースポットとの連携も図れればと思っています。

--そして今月(2006年11月)、TWS:青山クリエーター・イン・レジデンスがオープンしましたね。

当初から、東京で海外のアーティストが滞在・制作できる「アーティスト・イン・レジデンス」機能をもつ施設の必要性を感じていました。しかし、レジデンスには収益なんてないし、費用対効果も分かりづらい。3ヶ月間、泊まったアーティストから「こんな作品ができました」と言われても、それが投資額に見合うのか分からないし(笑)。最近は都の事業も採算性を求められますから、なかなか踏み出せずにいたのです。そんな状況でしたから、もともと宿泊施設を備える旧国連大学高等研究所の施設を使えることになったのは、まさに幸運でした。このレジデンスには、作品の制作を依頼するアーティストを海外から招くほか、各国のレジデンスと連携し、互いにアーティストを受け入れ合うプログラムも進行中です。すでに韓国やオーストラリアとはアーティストの交換が実現していますし、ロンドンやパリとも話がまとまっています。そして、ときには海外の著名なアーティストも招聘しようと考えていて、実は年内にある大物が訪れることが既に決まっています。そうした一流アーティストに制作の場として使ってもらうだけではなく、青山・渋谷界隈で活動するアーティストをはじめ、いろいろな人が訪れ、交流し、刺激を与え合えるアートの「プラットフォーム」にしたいですね。もちろん、日本には他にもいくつかのレジデンスがあるので、TWS青山がひとつのハブとなって国内ネットワークを築くことも目指しています。

TWS青山:クリエーター・イン・レジデンスのライブラリー。ここで滞在アーティストやキュレーターのトークが行われている

都市に“裂け目”を造ることで空間にアートが生まれる。

--海外のアーティストから、渋谷はどのように見られていますか。

ものすごく注目されているのは間違いないですね。さまざまな国のアーティストが「渋谷で何かをやりたい」と話すのをよく聞きます。特に駅前のスクランブル交差点の光景には、誰もが衝撃を受けるようですよ。世界中のどこを探しても、あんな交差点はありませんからね(笑)。イギリスを代表するあるビッグアーティストは、渋谷マークシティからスクランブル交差点をじっと眺めて、「あそこでプロジェクトをやりたい」と言っていました。彼らの目には渋谷はとても特別な街に映るんですね。僕自身も、そう思っていますし。だから、何かを大きく変えようとするのではなく、現在の渋谷の持つ良さを見つめ直し、それを加速させていけば、もっと面白い街になるのではないでしょうか。

--今の渋谷に足りないものがあるとしたら何でしょうか。

これは渋谷だけでなく東京全体に通じますが、無料でフラッと立ち寄れるパブリックスペースが少ないですよね。そもそもTWSは、都市の中の空き地のようなスペースになりたいと思っています。そういう空間は都市の「裂け目」になって、一瞬、日常から切り離されたような感覚をもたらしてくれるんですよ。例えば、渋谷駅や新宿駅は乗降客でごった返していますよね。そんな雑踏をふと見下ろせる場所が駅構内にあると、映画の『ロストイントランスレーション』に描かれていた、自分がエイリアンになったような喜びを感じられる。その感覚はアートと一緒で、機能性の追及からは得られません。パリのモンマルトルでも、本来、階段を上り下りするのは大変なのに、時折見下ろす街並みが本当に美しいから、階段もいいなと思えるわけでしょ。そういう観点で、渋谷だからこそ、従来の都市計画を無視した「あり得ない」ものを街中に造ってほしい。たとえば、建築家のバーナード・チュミは、関西空港のデザインコンペで構内にゴルフ場のあるプランを提案して驚かせてくれました。あり得ないものとは大体、そんなイメージです。

--それを渋谷に当てはめると、どのようなプランが考えられますか。

かつては童謡の「春の小川」に歌われた渋谷川を復活させたら面白いかもしれない。川は都市の「裂け目」なんですよ。空気の通り道になり、自然のベンチレーションが機能する。京都の先斗町も高瀬川が流れていることで良い雰囲気を醸していますよね。渋谷のような雑然とした空間に小川が流れていたらと、考えるだけでもワクワクしませんか。江戸東京博物館に置かれている江戸の街並みの再現模型を見ると、本来、東京には縦横に川が流れていたことが分かります。江戸の頃にはホントにキレイな街だったんですよね。そこに降り立った西洋人がことごとく驚愕したというのも納得です。現在は水位をコントロールする技術がありますから、渋谷川の復活は決して非現実的なプランではないと思うんですけどね。それから、たとえば渋谷駅のすぐ脇に陸上のトラックやプール、あるいは森林なんかがあったら面白いかもしれない。そんな視点で都市の裂け目を意識的に取り入れていけば、もっと人々に愛される街になるのではないでしょうか。

■プロフィール
今村有策さん
1959年福岡県生まれ。日本大学大学院理工学研究所建築学専攻修了。1985年に磯崎新アトリエに入所し、1991年から2年間はコロンビア大学客員研究員となる。その後、独立してライフスケープ研究所を設立。現在は東京都参与として文化政策を中心に知事への提言を行う一方で、トーキョーワンダーサイトの館長も務める。

トーキョーワンダーサイト トーキョーワンダーサイト(TWS)2001年、国内外の若手アーティストの育成を目指して設立。現在は本郷・渋谷・青山の三つの施設を拠点に、作品の展示や音楽イベントの開催、またアーティスト同士やアーティストと都民との交流の場となるなど、多彩な活動を展開する。2006年11月、アーティスト等の滞在・制作施設を備えるTWS青山:クリエーター・イン・レジデンスがグランドオープンし、国内外のアーティストの交換プログラムを充実させるなど、アジア、そして世界のアートネットワークにおける「プラットフォーム」としての東京の機能を強化させている。

トーキョーワンダーサイト

オススメ記事