東急東横線の地下化に伴い、2015年4月に空いた線路跡地に新しいライフスタイルを提案する商業施設「LOG ROAD DAIKANYAMA(ログロード代官山)」がオープンしました。その総合プロデューサーを務めたのが、ブランディングプロデューサーとして活躍する柴田陽子さん。これまでに渋谷ヒカリエのレストランフロアやグランツリー武蔵小杉などのプロデュース、またルミネや日本交通などのブランディングなどを手がけ、2015年のミラノ国際博覧会では日本館レストランのプロデュースを担当しています。ご自身も学生時代から渋谷に親しみ、現在は代官山に住居とオフィスを構える柴田さんが、「ブランディング」の視点から渋谷や代官山の今とこれからを語ります。
感度の高い若者と上品な大人が交じり合う空間を目指した
_2015年4月に「ログロード代官山」がオープンしました。この施設に込めた思いをお聞かせください。
「ログロード代官山」には、総合プロデューサーとして、コンセプト開発からネーミングやロゴデザイン、設計環境ディレクション、テナントの配置など全体的に関わらせていただきました。私自身、10年近く代官山に居住し、事務所も構えていますので、この街が強い思いのある方々に守られ、高い品性が形作られてきたことを知っています。近隣住民の方々に計画のご説明などをするなかでは、「応援するから頑張ろう」と代官山に住む私が担当することを歓迎する言葉をいただき、とても良い関係の中で進行してきました。それだけに、「おかしなものは創れない」というプレッシャーもありましたね(笑)。イメージとしては、代官山T-SITEで実現されているように、若くて感度の高い方々から品のある大人の方々までが心地良く交じり合い、世代の相乗効果によって良い雰囲気を生み出すことを目指しました。リラックスできるとともに、都会的な刺激があり、「先週はT-SITEに行ったから、今週はログロードに」と思っていただけるような場であってほしいと考えています。
_東急東横線の渋谷・代官山駅間の線路跡地というユニークなロケーションは、どのように活用されたのでしょうか。
散策路など、様々な場所に線路の古い枕木が使われている。
最初にこの地に立ったとき、空が大きく抜けている開放感、そして長い長い人の歩みや時間の経過を肌で感じました。まっすぐ細くて長い敷地にログハウスが点在し、グリーンがたくさんある空間に空と同化して目に移る――というコンセプトは、そんなイメージを大切にして形作りました。ブランドロゴは、線路マークを組み合わせて線路跡地であることを表すとともに、線路を12本で表現し、12ヶ月を通じて特別な場所として存在してほしいという思いを込めています。また、デザインのアクセントとして枕木を配するなど、かつての東横線の名残を感じられるようにも心がけました。線路跡地という面白いロケーションですが、実際の開発においてはメリットばかりではありませんでした。地下に電車が通っているため加重や地盤の問題があり、見た目よりは有効面積を確保できないなどの制限がある中、最大限にコンセプトを実現したつもりです。
代官山駅近くの旧渋谷第一踏切から渋谷方面に向かい、全長220メートルの線路跡地を開発した同商業施設。旧線路のあった細長い土地を生かし、空が広く抜け、散策路が真っ直ぐ伸びている。
住人の何気ない姿が新しいライフスタイルの提案になる
_「ログロード代官山」を訪れる人には、どのような利用の仕方をしてほしいとイメージされていますか。
米・老舗フレッドシーガルが世界初出店するなど、西海岸の雰囲気が漂う。
まず地元の方々のライフスタイルを想定し、テナントには、代官山のヘルシーな雰囲気を象徴するオールデイダイニングやショッピングを楽しめるお店を配置しました。地元の方々の圧倒的な支持を集めることが、素敵な暮らし方の提案となり、結果的に広域からお客様を集めることにつながると考えているからです。T-SITEでも、ジャージにスニーカーで犬の散歩をするといった住人の何気ない姿が、憧れの対象というか、素敵なライフスタイルの提案になっていますよね。逆に、地元の方々にそっぽを向かれた施設なのに周辺から人を集めようとするのは、私の中ではロジカルではないという考えがあります。
_柴田さんご自身は、代官山をどのような街として捉えていますか。
渋谷や六本木などの賑やかな場所に近いのに、とてもリラックスしていて居住に適した街だと思います。ファーストフードなどのチェーンストアがほとんどないことも特徴でしょうか。行き交う人々の感度は高いけど、あまりせかせかしていないところが、サンフランシスコにどこか似ている気がしますね。
四季折々の花と緑が囲む散策路沿いには、低層の5棟の商業施設が十分なスペース保ちながら並ぶ。都会とは思えぬ、ゆとりと贅沢さを感じる。