渋谷文化プロジェクト

渋谷をもっと楽しく!働く人、学ぶ人、遊ぶ人のための情報サイト

KEY PERSON キーパーソンが語る渋谷の未来

渋谷を中心に活躍する【キーパーソン】のロングインタビュー。彼らの言葉を通じて「渋谷の魅力」を発信します。

インタビューアイコン

江幡智広さん
(KDDI ∞ Labo長)

ネットワーキングしやすい渋谷を拠点に、
ベンチャー支援を通じ、「新しいイノベーションを生み出したい」。

プロフィール

1970年、千葉県四街道市生まれ。1993年、DDI入社。移動体通信事業の営業企画部部門からマーケティング、広告・宣伝などを経て、2001年よりコンテンツ事業に携わる。以来、国内外の社外パートナーとのビジネスデベロップメントを中心に活動。2012年4月より「KDDI ∞ Labo」を担当し、2013年にラボ長に就任。

渋谷ヒカリエ32階、渋谷の街が一望できる見晴らしの良いフロアに拠点を構える「KDDI∞Labo (ムゲンラボ)」。2011年にKDDIがスタートした同プロジェクトは、起業したばかりで経験の少ないベンチャーやスタートアップ企業の支援を行うインキュベーションプログラムである。この4年間の卒業生は1期から6期までに29チームを数え、既にビジネスとして成功し始めているプロダクトやサービスも生まれているそうだ。今回のインタビューでは、ラボ長を務める江幡智広さんを迎え、KDDIが「KDDI∞Labo」を運営する意義から具体的なプログラムの内容、さらに渋谷に拠点を構える利点などについて熱く語ってもらった。渋谷発ベンチャー支援の最前線とは――。

僕らではなく、ベンチャーがやりたいと思うことを生み出す。

_「KDDI∞Labo(ムゲンラボ)」とは、どんなプロジェクトなのでしょうか?

起業したばかりのベンチャーやスタートアップの足りないところを、僕らKDDIが持っているアセットを提供し、新しいサービスをしっかりと形にして世の中に生み出すためのプログラムです。成果をお披露目する「Demo Day(最終報告会)」を含むプログラム期間は3カ月で、準備や募集・選定を入れて半年で回しています。実際には卒業後も半年間くらいかけて個別で面倒を見て、もう少しプロダクトを成長させていくところまで、トータル一年がかりでサポートしています。

_KDDIがベンチャーを支援するのはどうしてですか?

日本では、既存の中から新しいイノベーションを生むのがなかなか難しいと感じています。僕たちも自らイノベーションを起こさなければならない立場ながら、そこに限界を感じていて。一方、若い方々、実際に起業される方々はアイデアを豊富に持っていますが、モノや人・金・支援がなく、それを最終的な形に落とし込むところまで辿り着けていません。KDDI∞Laboをスタートした当時(2011年)、米国を見ていると、その関係が日本よりも10年早く育っているなという感覚がありました。もし、僕らとベンチャーがコラボレーションできれば、彼らが頑張って伸ばすカーブを、僕らと関わることで短期間のスパンで、急速にぐっと角度を上げることが出来るのではないか、そんな思いでプロジェクトを始動しました。とはいえ、「KDDIと一緒に何か事業をやりましょう」というプログラムではありません。僕らが主体ではなく、あくまでも彼らがやりたいと思うことを世の中に出すことが前提です。その先に彼らが成長し、「僕らとのシナジーがすごく良さそうだ」という状況が見えてきたときに、事業の提携とか、僕らが運営するファンドで支援していくことも考えますが、基本的には人的支援のみ。僕らは「プログラム=資金を出す」というふうに考えていません。ベンチャーからは「お金を出してほしい」とよく言われるんだけど、即答で「出しません」と言っています(笑)

_「純粋にベンチャーを育てよう」という取り組みはとても素晴らしいことだと思うのですが、直接的な収益に結びつかないプロジェクトに対し、社内の理解が高いのはどうしてですか?

もともと、うちの事業本部は2000年くらいのモバイルインターネットの始まりから、決済とか、公式メニューとか、プラットフォームのレイヤーだけではなく、自らのサービスを創り出すことをやってきました。もちろん、自らのサービスとはいえ、うちの会社は通信会社ですから、ニュースや映像コンテンツは持っていません。そういった意味では外部の方々とパートナーシップを組みながら、新しい事業を立ち上げていくというスタイルに抵抗感がありません。また、我が社の社長である田中は、KDD時代の若いときにスタンフォード大学に留学しています。その当時は、アメリカのHPやオラクルなど、ソフトウエアのプレイヤーたちがシリコンバレーで続々と誕生していた時期で、田中はそういう環境を肌で実感しています。自由な環境でイノべイティブな活動が出来る場の提供や、ベンチャー支援に対する理解の高さは、そうした点が大きいかもしれません。

開放的なフロアの中央には、全体ミーティングができるスペースがある。

渋谷の魅力は、ベンチャーとのネットワーキングのしやすさ。

_なぜ、その拠点に「渋谷」を選んだのでしょうか?

KDDI本体は飯田橋が本拠地なのですが、飯田橋では縦長のテーブルに固定座席があって、いつも同じメンバーと顔を合わせながら仕事をしています。また、会議室もそれぞれ個室なんですね。これでは発想が広がらないんじゃないかと。僕らの事業部は「新しい領域、オープンな場所、イノべイティブな発想をより生み出しやすい環境で仕事をしていこう」という考えから、六本木の泉ガーデンタワーに飛び出したという経緯があります。当時、六本木は、元気なベンチャーが集まる環境でしたから。でも、時代を経るとともに若い起業家の拠点は、徐々に渋谷や恵比寿、目黒、中目黒などに広がっています。そこで思い切って事業部ごとバサッと渋谷に移ってきました。

_確かに最近、渋谷にITベンチャーが集積し始めていますが、それはなぜでしょうか?

人が人を呼んでいる感じがしています。単なるファシリテーションという意味ではなく、誰かが誰かを呼んでいるという。DeNAやNHNなどが渋谷に移って来たのも大きいかな。僕らの周辺でも「KDDIさんとかもいるから、渋谷に行こうかな」という声も聞こえてくるし、ネットワーキングのしやすさが渋谷に集積する理由の一つではないでしょうか。僕らの事業部でも六本木のときより、人とのコミュニケーションが増しています。それは周辺にベンチャーが多いので、ちょこっと行って、すぐに戻ってくることが出来るため。僕らのオフィスに来てもらうのもいいですが、相手のオフィスまで行って職場環境を見たり、会社の雰囲気や社員がどんな人なのか、通り過ぎるときに挨拶があるのかないのかなど……。外に出てって、いろいろ情報を得ることも大事です。文化やファッションはもちろん、ベンチャーとのネットワーキングのしやすさや、新しいイノべーションが生まれやすい環境という点でも、渋谷はとても魅力的なエリアであると感じています。

_六本木時代と比べて、スペースや設備面で何か変わりましたか?

スペースは六本木時代のラボの倍になり、とても広くなりました。32階のラボの真ん中には、全員が集まってミーティングが出来る環境があり、その奥に個室や個別会議室があります。採択されたチームは、いつでもここに来て仕事をすることが出来ます。自分の友だちや仲間を連れてきてもいいし、ここでミーティングをしても構いません。中にはオフィスを持っていないチームもあるので、KDDI∞Laboに大きなディスプレーを持ち込んで常勤する人もいます。基本的に出入りは自由で、利用時間は朝7時から夜は12時まで。彼らには鍵を渡していますので、必要であれば土日の利用可能です。ただし、「寝泊まりすること」「酒飲んで、どんちゃん騒ぎすること」だけはダメ(笑)。また、メディアの取材時に見栄えが良いのでここで取材を受けるとか、投資家と会うときにここを使うというケースも多いようです。

渋谷ヒカリエ32階のフロアからは「渋谷の街」が一望できる。

「未熟」「赤字」など、本当に助けてくれる人がいない人を支援したい。

_「社員数10人以下、起業から3年以下、出資受けていない」など、プログラムの応募要項にはいくつか条件がありますが、どんな基準でルールを決めているのですか?

5期まではもっと自由な応募条件で、基本的に「新規サービス」なら何でも構いませんでした。極端な話をすれば、DeNAやグリーなど、大手で働く社員が新たなサービスを立ち上げるため、このプログラムに参加したいという場合もルール上はOK。過去には、実際に黒字で回っている企業の新規事業を採択したケースもありましたが、やってみて分かったのは、そういうチームと、学生上がりのチームとでは随分と知識などに差があるということ。これはこれで良い面もあり、よく知っている人たちが、知らないチームへ情報を共有して支援し合う。お兄ちゃんや先輩という形で、コミュニケーションが生まれるという姿も目立ったのですが、でも最後の仕上りでは、どうしても大きな差が出てしまうわけです。そこで6期からはキーワードを「0から1へ(ゼロイチ)」とし、「会社として未熟である」「ほぼ赤字である」など、まだ成功体験を持っていないベンチャーに応募条件を絞っています。1に踏み出すきっかけとして、KDDI∞Laboが関わっていこうと。たとえば、ベンチャーキャピタルから何千万円も資金調達している場合、極端な話をすれば、人が必要なら10人でも20人でもヘルプする人を一時的に雇えばいいという発想になっちゃう。片や、一人二人でやっているお金のないスタートアップでは、環境に差が出てしまいます。そこで6期以降からは「本当に助けてくれる人がいない人を支援していこう」と応募条件を軌道修正しています。

_応募数はどのくらいあるのですか?

前回の応募は、ちょうど倍くらいになって190案件くらい。応募アイデアには、明確な条件を設けていないのですが、KDDIのやっている活動を踏まえて「ICT(情報通信技術)×〇〇」に関わるものがメイン。決してモバイルやソフトウエアのサービスではなくてもいいし、ハードウエアでもいいし、それを融合したものでも構いません。ただし、アイデアを形に出来るエンジニアが最低一人以上いることが前提です。ソフトウエア作りたいけど、アイデアが頭にあるだけで、それを作ってくれるエンジニアが誰もいないと言われても、それは支援できません。基本的に自分たちで最終成果物まで作っていけること。もちろん小さなベンチャーの場合、ひとり一人の仕事がきれいに分担されているわけではありません。ほとんどの場合、一人がデザインとプログラムを兼ねていたり、まずはAndroid(アンドロイド)を作って、追々iOS(アップル)もやっていくとか…。何かが欠けていても問題はありません、場合によっては、チーム間を超えて支援し合うケースもありますので。

_190案件のうち、実際に採択されるのはどのくらいですか?

合格は4、5チーム。先ほどの応募条件に合わないものをバサッと切ります。次にチームに3カ月間にわたってずっと付きそうKDDI社員と、このプロジェクトに賛同するパートナー企業で支援チーム(2〜3人)を結成し、この支援チームが面白いと思う案件を自由に選んでもらっています。現在始動中の第7期からは、三井物産やテレビ朝日、東急電鉄、コクヨ、セブン&アイなど、多種多様なパートナー企業13社が参加し「パートナー連合プログラム」を組んでいます。僕は最終的な採択には、一切関与しません。というのも、支援チームには「自分で選んだのだから、最後までサポートしなさい」という責任を持ってもらうため。まさに採択されたベンチャーとうちの社員、パートナー企業の三位一体で進めているところです。

オススメ記事