5年間にわたって毎日原宿のストリートを歩き、4,500人以上のスナップを撮り続けてきたシトウレイさん。渋谷の、原宿の、人とストリートの変化をファインダー越しに見つめてきました。自身がファッション好きの学生としてストリートを闊歩していた頃、モデルとして撮られる立場だった頃、そしてフォトグラファーとして冷静に人と街に向き合うようになった現在、渋谷や原宿の街はどのように移り変わってきたのでしょうか。今回のキーパーソン・インタビューでは、チャーミングな笑顔が魅力的なシトウさんを迎えて、ストリートスナップを始めた経緯からファッションや街への思いまで、じっくりとお話をうかがいました。
東京のスタイルは日本人が考えている以上に海外の評価が高い
_大学時代からモデルとして活躍されていましたが、どのような学生生活を過ごされていたのでしょうか。
それでは高校時代の話から始めますね。当時はやりたいことがなく、大学では興味のあった日本文学か哲学を学ぼうと思っていましたが、周囲から「経済学部はつぶしがきく」とか「商学部は就職に有利」とか、いろいろ言われて分からなくなってしまって……。それで先生に相談したら、「高校までは強いられて勉強するけど、大学は自分が好きなことを学ぶ場所だから、やりたいことをやりなさい」と言われ、自分の好きな道に進もうと決めました。その頃、ちょうど同じ高校の卒業生で、早稲田大学の教育学部で先生をしていた方が来校して講演されまして。その話を聞いて感銘を受け、「この人のもとで勉強したいな」と思って早稲田大学に進学したものの、先生が別の学部に移ってしまって(笑)。授業は、モグリで聞かせてもらいましたけどね。そんな経緯で教育学部に進んだため、教員免許は持っていません。モデルを始めたきっかけは、街でスカウトされて事務所を紹介されたことです。雑誌やCM、PVなどの仕事をしましたが、バイト感覚で、ずっと続けるつもりはありませんでした。
_その後、フォトグラファーに転身したきっかけは?
シトウさん愛用のカメラ
大学で勉強してモデルの仕事をする毎日を送っていたら、気付くと就職活動の時期が終わっていまして(笑)。それで卒業後もモデルを続けていたら、ある日、ストリートファッション誌の編集長から「ちょっと事務所に来い!」と声をかけられたんです。何度か撮影されたことがあり顔見知りでしたが、なぜ呼ばれたのか見当がつかず、恐る恐る事務所に行くと、唐突に「カメラをやって欲しい」と言われたんです。それまでカメラはほとんど触ったことがなく、全く興味もありませんでした。初めは勘違いかと思いましたが、「街で何かを撮影してこい」と言われ、本当に初歩的な写し方だけの操作を教えてもらい、カメラとフィルムを持って渋々と街へ。それで撮りたいものを探していると、破れたバーバリーのコートの着こなしがとても可愛い、太った外国人のおじさんが目に付いたんです。声を掛けると、周りから黒服を着たお付きの人たちがぞろぞろと現れて驚かされたのですが。その年に表参道にオープンしたルイ・ヴィトンを手がけた有名な照明デザイナーだったんです。そんな偉い人でしたが、快く撮らせてくれました(笑)。ほかには、原宿のストリートで営業していた絵描きさんなどを撮って編集長にフィルムを渡したのですが、どうやらそのユニークな視点が目新しかったのか合格だったようで、その後、フォトグラファーとしてストリートスナップを撮るように言われました。そもそも、どうして私に声が掛かったのか未だに分かりませんが、ファッションが好きだったことと、あまり物怖じしない性格が理由だったのかもしれません。そんな経緯で、モデルとフォトグラファーの兼業になりました。
_本格的にストリートスナップをやろうと思ったのはいつ頃からですか?
最初はつなぎの仕事としか思っていませんでしたが、次第に楽しくなり、「ずっとやりたい」と強く思うようになりました。それで自分のメディアを持ちたいと思い、2008年に「STYLE from TOKYO」というブログを始めました。当時、海外ではブログがメディアとして認知されつつあり、その流れがいずれ日本にもやって来るだろうという確信がありまして。自分のメディアを持つからには、編集部の仕事と掛け持ちすることは考えられず、すぐに独立を思い立ちました。「いずれ自分のメディアのほうを大きくしてやる!」と思っていたので。野心家なんですよ(笑)。
_ブログは日本語と英語の2カ国語ですが、どのような意図があるのでしょうか。
パリコレやニューヨークコレクションなどを訪れて撮影をするようになってから、東京のスタイルは日本人が考えているより、海外で高く評価されていることを知りました。私がブログを始めた頃は、東京のファッションを紹介するメディアは、ちょっと奇抜なものに偏っていたため、ストリートのリアルなスタイルを海外に伝えたいと思い、英語でも発信することにしました。海外の読者か
らコメントが寄せられることも多く、本当に嬉しいです。
原宿こそが世界一おしゃれな街だと確信している
_東京のファッションは、どのような点が評価されているのでしょうか。
海外のファッションショーなどの場で、私が日本人と分かると「原宿のファッションはすごい」とよく話しかけられます。彼らが評価しているのは「レイヤードや色の使い方が独特」「おしゃれをしている若い子が圧倒的に多い」といった点ですね。海外では、おしゃれはお金のある大人のものというイメージなんです。その点、原宿キッズは、お金はないけど工夫して、そこからオリジナリティを生み出しています。お金があるとキレイな服を買って完結しますから、工夫する必要がないんです。原宿キッズは、お金がないなりにアレンジして、イマジネーションを培っています。また、日本は八百万の神々の世界だからか、ミクスチャーを許容する文化がありますよね。ファッションだけではなく、食事も文字も、海外から取り入れたものを自分たちでアレンジして高めている。そんな文化性が、ファッションにも応用されているのでしょう。海外の評価を知ったことがきっかけで、改めて原宿のスタイルを見直し、今では、原宿こそが世界一おしゃれな街だと確信しました。でも、好きになり過ぎると偏った目線になるため、少し引いた立場から原宿を見るように心がけています。
_原宿では、どのようなポイントでストリートスナップをされているのでしょうか。
5年間で撮影した延べ人数は4500人を超える。
私のストリートスナップのスタイルは少し変わっていて、定点観測ではなく、ブラブラと歩きながら写しています。動いたほうが街の移り変わりが分かるし、背景の写り込みもいろいろと工夫したいから。ほぼ毎日撮影していますが、1日5人を撮る日もあれば、1人のことも。以前に比べて人数は減っていますが、これは海外でも様々な場所でストリートスナップを撮るなどして、ファッションの勉強や経験を積んだことで見る目が厳しくなったことが理由の一つかもしれません。「素敵だな」と思った人に声をかけて撮らせてもらいますが、特にルールは決めておらず、流行も意識せず、「勘」で選びます。自分の「好き」が一番の基準です。撮影時は、その日のファッションアイテムのブランドや買ったお店、好きなお店やブランドなどのほか、「将来やりたいこと」を聞きます。この質問が、人間性が表れて一番楽しいですね。この間、「ビッグになる」と書いてくれた若い男の子がいて、「頼もしいなあ」と感じました(笑)。
_モデルやフォトグラファーのほか、様々なジャンルに仕事を広げていますよね。
写真集を出させてもらったり、ラジオのパーソナリティをしたり、とても面白いです。5年前には想像しなかったオファーがたくさんきて、思い描いていた未来とは違う方向にどんどん進んでいます。いまだに自分がどこに行くのか分からないから、できるだけオファーは受けたいと思っていますよ、変な内容じゃない限り(笑)。
原宿、表参道はシトウさんのストリートスナップのホームグラウンド