7月1日、「広域渋谷圏」で活動するクリエイターと企業をマッチングするSNSサイト「XSHIBUYA(クロスシブヤ)」がオープンします。その代表を務める本荘修二さんは、ご自身も広域渋谷圏内に事務所を構え、IT関連事業のコンサルティングなどに幅広く携わっていらっしゃいます。本荘さんにXSHIBUYAの狙いや、渋谷への思いなどを伺いました。 --「XSHIBUYA(クロスシブヤ)」の目的を教えてください。
最大の目的は、様々な企業と、デジタルコンテンツをはじめとするクリエイターとの橋渡しをすることです。もともと渋谷を中心とした「広域渋谷圏」にはクリエイターが多く、いわゆる“ビットバレー”によってITベンチャーも集積し、デジタルコンテンツの創造には非常に適したエリアです。ところがクリエイターは分散して活動するため、企業がクリエイターを探すのは人づての紹介くらいしか方法がないのが現状でした。これは非常にもったいない状況です。そこでXSHIBUYAではSNS(※)によってクリエイター間のネットワークを構築し、さらに企業が求人や事業アイデアの募集を行うシステムを整えて両者を結び付ける役割を担います。一口にクリエイターと言っても、デザイナーやシナリオライター、カメラマン、ファッション関連、さらには役者やモデルなど職種はさまざまです。企業からのアプローチも、一般的な求人に加え、プロジェクトごとに人材を集めたり、新製品開発のためのテーマをクリエイターに議論してもらったり、また異業種のコラボレーションをしたり――いろいろな形が想定できます。プレオープンで反応を見たところ、なんと一日半の間に800名近くものクリエイターが集まりました。サイトに対する期待の高さと受け取っています。
※SNS(social networking service)…参加者が友人を紹介し合い、ネットワークを広げる目的で開設されたサイト。日本では「mixi(ミクシィ)」などが有名。誰でも自由に参加できるサービスと、紹介者がいなければ参加できないサービスがある。XSHIBUYAは後者。
--XSHIBUYAが銘打つ「広域渋谷圏」とは、どのようなイメージなのでしょうか。
このネーミングは、活動の場を渋谷やその周辺地域に限定する意味ではなく、世界に文化を発信するクリエイターの街である「渋谷」というイメージを元に、カルチャーとしての「SHIBUYA」に共鳴する人が集まる場を表しています。ですから、日本全国、いや、世界のどの地域から参加していただいても構いません。むしろ、最終的にはXSHIBUYAを通じて、アメリカやイギリスなどから渋谷のクリエイターに仕事を頼んでもらえるようになればいいですね。もっとも、実際に仕事を進めるうえではネット上のやりとりだけでは不都合が出てくるでしょう。またオフ会などを通じてリアルなつながりを持てれば、ネットワークの可能性も膨らみます。そのように実際に顔を合わせるコアな活動は、渋谷周辺を中心に展開されることになると思います。渋谷というのは面白い街で、もはや「渋谷」は単なる地名や駅名ではなく、活動の場を表す“概念”になっていると思うのです。日本では右や左を見て行動する80点くらいの優等生が尊ばれますが、渋谷では「突き抜ける」ことが許される。“ブランド”として世界に通用する大都市ですが、決して守りに入らず、保守化することもない。そういう街だからこそ、XSHIBUYAを生み出すことができたと思っています。
--XSHIBUYAによって、渋谷はどのように変わると期待していますか。 一つは海外に渋谷を広める効果が大きいと思います。実際に渋谷に来てもらうのも良いのですが、単に街を歩くだけでは分からないことも多い。たとえば、日本人の視察団がシリコンバレーを訪れてもオフィスを見学するだけでは、ビジネスの本質は理解できません。その点、XSHIBUYAを覗けば、渋谷のクリエイターがどのような活動をしているかは一目瞭然です。さらに対内的には、分散していたクリエイターに連体感が生まれ、渋谷を中心としたエリアのなかで自由につながる効果も生まれるでしょう。そうなれば異業種のクリエイターによるコラボレーションをはじめ、さまざまな方向に可能性が膨らんでいくと期待しています。
--本荘さんと渋谷との出会いを教えてください。
ボクは福岡出身で大学受験まで九州から出たことがありませんでした。受験で初めて渋谷に来たときは、ホントに驚きましたよ。人や自動販売機がものすごく多くて、山手線は時刻表を見なくても乗れる。昔の映画に大都市を訪れた田舎者がびっくりして熱を出すシーンがよくありますが、驚くことにボクもホントに熱を出してしまいました(笑)。大学は東大で最初は駒場に通っていたので飲み会といえば渋谷でしたし、ボク自身も東北沢に住んでいたので、しだいに渋谷は身近な街になりました。いまも下北沢に住んでいて、渋谷は“好き嫌い”のレベルを超えて、“習慣”のような存在ですね。学生時代と今の渋谷を比べると、街の「文化度」は高まっているのではないでしょうか。情報発信地としての色彩が、より色濃くなっているように感じます。
--渋谷のITビジネスの現状を教えてください。 WEB2.0(※)の時代の第二世代の経営者が増えていますね。その世代には20代も少なくありません。その一方では、ビッドバレーの頃からの第一世代の経営者もバリバリと活動していますよ。XSHIBUYAを立ち上げる原動力になったのも第一世代の経営者たちです。彼らには、こうしたサイトを作ることで社会に恩返しをしたり、さらに皆で協同することの重要さに気付いて、それを具体的な形にしたいという思いがあるようです。渋谷ではつねに若者がエネルギッシュに活動していますが、将来的に第一世代の経営者がシニアと呼ばれる年代になったときにも、幅広い年齢層が活躍できる場であってほしいと思いますね。
※WEB2.0…次世代のウェブのあり方を総称する言葉。明確な定義はないが、ニッチな需要を積上げて大きな売上を得る「ロングテール」、草の根的なコミュニケーションを促進する「ブログ」「SNS」などが具体例として挙げられることが多い。
--今後、渋谷には、どのような方向性を目指してほしいと思いますか。
近年、ITエンジニアの世界では日本の人材の地盤沈下が起こり、逆にインドや中国が注目されている。それに対し日本人は何を付加価値として勝負するべきか。ボクは、そのモデルを提示できるのが渋谷のクリエイターだと思うのです。渋谷には、働き方にしても、暮らし方にしても、自分の生活をクリエイティブに楽しもうとする人が非常に多い。そういう街の魅力を感じて、未来のある若いクリエイターがどんどん集まります。先日もクリエイターが所属するITベンチャーの社長に「他の街なら、もっと家賃は安いんじゃないか」と話したら、その社長は「渋谷を離れたらクリエイターの半分は辞めてしまう」と言うんですね。それは通勤時間などとは無関係で、渋谷の街ではいろいろとエキサイティングな面に触れられることに魅力を感じているのでしょう。そういう引力が渋谷にはあるし、新しい人を受け入れるキャパシティもある。だからこそ渋谷には、今後も守りに入らずに実験的な試みを続けて、つねに新陳代謝の高い街であってほしいと思います。さらに、大規模な開発によって完全にクリーンな空間を造ろうとはぜずに、ある程度、清濁を併せ呑むような環境を保つことも大切でしょう。そのような“揺らぎ”のなかにこそ、発展は生まれるものだと思います。
■プロフィール
本荘修二さん
福岡県生まれ。東京大学工学部卒業。さらにペンシルバニア大学ウォートン経営学大学院において経営学修士を取得。現在は、IT企業の投資・育成を行うジェネラル・アトランティック(本社:アメリカ・コネチカット州)の日本代表を務める一方で、IT関連の新事業をコンサルティングする本荘事務所を運営する。さらに7月1日にオープンするポータルサイト「XSHIBUYA」の代表も兼任。