当ウェブサイトでは「渋谷文化茶会」と銘打った公開フォーラムを設け、渋谷を拠点とするキーパーソンと共に「渋谷のまち」について、じっくりと考えて語り合える「リアルな場」を今春からスタート。2010年3月13日に開催された第1回ではシブヤ経済新聞編集長・西樹をコーディネート役とし、パネリストに「アクロス」編集長 高野公三子さん、コスパ代表 松永芳幸さん、シブヤパブリッシング&ブックセラーズCEO/編集責任者 福井盛太さんを迎え、「渋谷の魅力」をテーマに話し合いました。
※記事は約60分間に及んだ意見交換の中から、一部抜粋・編集したものを掲載しています。
- 「渋谷文化茶会 其ノ壱」開催概要
- 日時:
- 2010年3月13日(土)15:00〜16:30
- 会場:
- ヨシモト∞ホール(宇田川町)
- 参加者:
- 200人
パネリスト
高野公三子氏(「アクロス」編集長)
「定点観測」を通し、東京の若者とストリートファッションの観察・分析に従事する。
ACROSS
松永芳幸氏(コスパ 代表取締役)
コスプレ衣装やアパレルの制作・販売、メイドカフェ「CURE MAID CAFE」の運営などを手掛ける。
COSPA
福井盛太氏(シブヤパブリッシング&ブックセラーズCEO/編集責任者)
神山町に書店を構えるほか、季刊誌「ROCKS」など編集・出版を手がける。
SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS
コーディネーター:西 樹 氏
(シブヤ経済新聞編集長)
ニュースサイト「シブヤ経済新聞」の運営をする(株)花形商品研究所代表。
シブヤ経済新聞
「スクランブル交差点周辺が魅力」(松永さん)
西:「街を俯瞰(ふかん)」するという意味で、まずは松永さんがお答えになった「スクランブル交差点周辺が絵になっていて魅力的」という言葉から見ていきたいと思います。これは「渋谷」をどのように感じての言葉でしょうか?
松永:ここでは「渋谷」を、日本を象徴する場所と捉えています。アニメや映画の舞台に渋谷が登場することがよくあって、「スクランブル交差点周辺」の映像コンテンツがその象徴的なシーンとして世界中に配信されています。ちなみに映画「平成ガメラ」の中では、スクランブル交差点近くにあるウチの会社の看板をガサッと壊していただいたこともありました(笑)。日本のコンテンツが好きな人にとっては、「スクランブル交差点」は東京のシンボリックな場所としてイメージされているのではないでしょうか。
西: NHKなどテレビ各社は、スクランブル交差点にカメラを向けて朝出勤する人、夜帰る人、台風の時は曲がった傘を差して信号を待つ人の姿などを映し出しますね。人の営みや動きがライブで見られるこの場所は、世界に向けてのステージなのかもしれません。高野さんは「スクランブル交差点」をどう捉えていますか?
高野: QFRONTのスターバックス中2階に小さなテーブルがあって、そこで立ったまま飲食できるスペースがあります。急いでいるときでも、ちょっとそこに寄るのが私のちょっとした楽しみになっています(笑)。その場所から交差点を見ていると、外国人観光客が交差点を渡る人びとを写真撮影している姿をよく見かけます。そうやってあの場所のイメージが浸透しているんだなって思いますね。
福井:私は愛知県出身なんですが、最初に「スクランブル交差点」を渡ったときの記憶はすごく残っています。とにかく人が多くて圧倒されて、「祭りをやっているのかな」って思いました。それがいまだに忘れられませんし、あの交通量や歩行者の多さは海外から見ても印象的なのでしょうね。人々が交差していく姿は何か様々な物語が交錯していくような感じもしますね。
西:「誰ともぶつからずに交差点を渡り切っている姿がすごい」という人もいます(笑)。
「しがらみなく気配を消せる」(松永さん)
西:次も松永さんのキーワードですが「しがらみなく気配を消せる」。非常にナイーブな表現ですが、これを書かれた背景は?
松永:私は福岡出身ですが、それから渋谷区に住んで職場も渋谷という環境で、過去や友達や親などのしがらみが全くなくて「1人だけ」という状態になった経験があって。もちろん寂しさもありますが、一方で「(渋谷では)何でもできる」という思いも強かったですね。例えば思いっきりオシャレをするにしても、人目を気にしなくてもいいですから。渋谷ではクラブもショップもいろいろな場所に行きましたが、人々がものすごくフランクに受け入れてくれるので自由度が高く、しがらみをあまり追及しなくていい。その場だけの関係で相手の電話番号も名前も知らないけど、来週その場に行けばまた会えるというような…。「その場で楽しく遊ぶ」という思いがすごくありました。
西:人と人の距離感がある街なのでしょうか?
松永:そうですね。僕らを受け入れてくれたときの環境を思い返すと、歴史を必要せず、お互いに浅い者同士で交友関係が広がっていたような気がします。
「渋谷24(トゥエンティフォー)」(高野さん)
西:次に高野さんのキーワードですが、「渋谷24(トゥエンティフォー)」とお読みしていいのですか?(笑)。
高野:はい。私はどうしても髪を切りたいっていうときに1回だけ「深夜営業」する美容室に行ったことがあるんですが、渋谷には「24時間」営業している美容室やネイルサロンなどが多く、そういう都市の生活者のための「便利なものがある街」だなという思いがあります。私の知り合いに外資系の代理店ウーマンがいるんですが、夜12時過ぎにプレゼン資料を作り終わって、その後ネイルサロンで明日のプレゼンのためのネイルをするそうです…都市のライフスタイルだなと思いますね。
西:「眠らない街」的な印象がありますね。
「外れが面白い」(高野さん)
西:場所でいうと、どこが「外れ」に当たるのですか。
高野:『アクロス』では「渋谷の街」を1980年から調査していて、面白くて元気な所とそうじゃない所は時代によって変化があるんですが…。最近の流れでは、オシャレな人が夜遅くに集まる神山ストリート、あと代官山方面に抜ける道で神南からちょっと裏に入ったところ、あとは池尻、代々木上原などを指しています。広域渋谷で考えると、すり鉢状の「へり」部分にちょこちょこと良いお店があったりします。「へり」に常に新しいものが出来ているんです。
西:なぜ、「へり」にできるのでしょうか?
高野:「渋谷の街」は、商業的にコマーシャライズするようなメディア装置的な宿命みたいなものがあるような気がしていて、そうなるのは「へり」から下ってきて、次にまた新しいものが「へり」に出来て、また周りから真ん中に落ちてくるみたいな、何となくその循環があるような気がしています。
西:なるほど。今、「すり鉢状」という言葉は、渋谷を語るときに必ずと言っていいほど出てくるキーワードですね。新宿、銀座、池袋はほぼ平面的に街が展開されていますが、渋谷は駅が一番底にあってどこへ行っても坂がある、非常に不思議な構造の街です。だから「へり」という言葉が使える大型都市はとても少ない。今話題に上りましたが、神山町に店を構える福井さんから見て、最近の「神山町」はいかがですか?
福井:飲食店の出店が多いですね。それも「格調高い」飲食店が点在している印象です。食事をして、その後もう一杯バーでお酒でも飲もうかな、という時に困らない感じになってきています。
西:やはり若い方が多いのでしょうか?
福井:若い人だけじゃないです。「猫八」という有名なバーが真ん中部分にあるのですが、そこには昔からの年配の常連さんがいる一方で、わざわざ雑誌を見て、調べていらっしゃる人たちも目にします。
西:なぜ、神山町人気が高まっているのでしょうか?
福井:出店しているのでわかるのですが、多分家賃が安いからですね。正直言えば、中央部に出したいのですが…。書店を開くと、どうしても家賃の負担が大きくなります。でも神山町ぐらいから坪単価が下がります。ですから、他の店の方たちも、気持ちがあっても結局はあの周辺にせざるを得ないのかなとも思います。神山町はいまある程度イメージが出来つつありますから、将来の先行投資として神山町を目指すのもいいと思います。
西:チャレンジャーが集まる一角ということですね。渋谷にはそういうエリアがポツポツありますね。
「おしゃれな外国人が多い」(高野さん)
西:高野さんからは「おしゃれな外国人が多い」というキーワードもいただきました。
高野:渋谷と新宿と原宿で「街頭インタビュー調査」として毎月定点観測していますが、オシャレで、ヘアメイクのかわいい子に普通に声をかけたら、実は台湾や外国の留学生だったということもあります。最近日本の女の子たちのファッションが同質化傾向にあるのに比べて、個性的でオシャレな外国人がすごく多くなっています。ビームスの方と話をしても、最近はお客さんの3割ぐらいが外国人とおっしゃっていました。渋谷のパルコも最近そういう感じです。
西:秋葉原ではどのような状況ですか?
松永:バスで一気に大人数でやって来て、ガーッと買ってガーッと帰る人たちから、プライベートで来る人たちまで、外国人観光客は多いですね。
西:秋葉原では観光客に対して何かアピールしていますか?
松永:「アピールしたから」ということではないと思います。そもそも秋葉原は戦後、真空管からラジオを組み立ててそのパーツを売るという「無線機とラジオの街」でした。それから白物家電からオーディオ製品へと流れ、90年代には「パソコンの街」へ変貌を遂げた。我々が出店し始めた2000年からは漫画、ゲームをモチーフとしたキャラクターグッズなどが台頭し、日本の中でも最も競争が激しい街となりました。値段で勝負する店も乱立し、よそでは手に入らない専門性の高い物を売っている所もある。店員の専門性も高いので、かなり突っ込んだ面白い情報までナビゲートしてくれる点では、マニアの要求に応えている街だと思います。だから世界中のマニアが秋葉原に来て、うなって帰る(笑)。宣伝というよりは、そこでしか得られないものや街の魅力が口コミで伝わった…という方が強いんじゃないでしょうか。
西:「オタクマーケット」は今やワールドワイドですが、例えば英語や中国語などスタッフの語学対応はいかがですか?
松永:日本のコンテンツを目指して来る外国人は、そもそも日本のアニメを見たり、コンテンツを見たりして来ますから言葉はいらない。値段さえ分かれば、コンテンツを通じて外国人同士で何とか会話ができてしまいます(笑)。
西:キャラクターの名前を口にできれば、一つの共有点になりますね。
松永:そうです。自国でローカライズされているものよりもベースとなっている日本語をそのまま覚えている人が多いようです。
西:秋葉原としては、今の状態に満足しているのですか?それとも、もっと観光客を呼び込みたいのでしょうか?
街としては観光客アップのためにいろいろな知恵を出している最中なのですか?
松永:頑張ってやっています。歩行者天国が中止になった一昨年から街が結束し始め、今、動き始めたところです。
西:ハチ公広場に立っていると、海外から来た外国人とか、地方から来た修学旅行生が、何かを見ながらあそこで立ちすくんでいる姿をよく目にします。ナビゲートしてあげたいのですが、言葉の壁からそれすら出来ないもどかしさがあって…。渋谷観光に来た人に「こっちに行ったら面白いのがあるよ!」ということを、サポートできるような街になればいいなと、よく思います。