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独断と偏見で「2011年の渋谷」を振り返る

2011年もいよいよ数日を残すばかり。今年を象徴する出来事といえば、3.11の東日本大震災に尽きます。「甚大」「未曾有」「想定外」という言葉を頻繁に耳にし、今なお、私たちの心の中でトラウマ的な悪夢がよみがえってきます。海外に目を向ければ、N.Y.の9.11から10年目、さらにチュニジア、リビアなど「ジャスミン革命」と呼ばれる民主化運動が中東諸国に広がるなど、国内にとどまらず、世界各地で感情が交錯する出来事や事件が次々に起こった一年でした。中でもウサーマ・ビン・ラーディン、カダフィ大佐、金正日(キム・ジョンイル)といった民主主義の敵とされた悪役3人が立て続けに亡くなったことは大きな衝撃でした。大きなうねりが起こったのち、果たして日本は、世界はどうなっていくのでしょうか。2012年が希望に満ち、輝く年となることを強く願うばかりです。

さて、話しを少々大きく膨らませすぎましたが、2011年、渋谷では一体何が起こったのでしょうか。今年、渋谷で起こったニュースを何の裏付けもなく、勝手にランキング形式で紹介してみたいと思います。

1位「節電対策で『渋谷スクランブル交差点』の大型ビジョンも消灯」
2位「東電のPR施設『電力館』が閉館」
3位「岡本太郎の巨大壁画『明日の神話』に絵を付け足し−Chim↑Pomが声明」
4位「ナイキパーク改め『みやした公園』がリニューアルオープン」
5位「『渋公』復活−『C.C.レモンホール』のネーミングライツ契約満了で」
6位「センター街に『バスケットボールストリート(通称、バスケ通り)』が誕生」
7位「『渋谷ヒカリエ』のグランドオープンが4.26に決定!」
8位「Twitter、Facebookのクチコミ効果でイベント中止相次ぐ」
9位「ヴィレバン、ゲオなど、大手チェーンが遅まきながら渋谷へ進出」
10位「ノマドワーカー向けのシェアオフィスの出店加速」


1位「節電対策で『渋谷スクランブル交差点』の大型ビジョンも消灯」

堂々のトップニュースは「節電対策で『渋谷スクランブル交差点』の大型ビジョンも消灯」。東日本大震災は被災地ばかりではなく、東京の交通機関の麻痺も引き起こしました。都内だけでも10万人を超える「帰宅難民」が発生し、渋谷駅にも人が溢れ、行き場を失った人びとが疲れ果てた様子で、駅構内や街中で蹲る姿が忘れられません。地震発生から約1ヶ月近くは、渋谷スクランブル交差点をはじめ渋谷の街から、いつもの喧噪やにぎわいが一切消え去り。煌びやかなネオンや大型街頭ビジョンもなく、シャッターを閉めるお店も多く、かつて見たことのない「重く暗い渋谷」が印象的でした。唯一、混み合っていたのは乾電池、懐中電灯、ラジオなどを求め、「ビッグカメラ」「ヤマダ電機」を訪れる人びとのみ。買い占めに走る人びとの「群衆心理」の一端を垣間見た気がします。
(左:3月11日、混雑する渋谷駅の様子)
(右:3月14日、大型ビジョンは消え、人出もまばらのハチ公広場前)

2位「東電のPR施設『電力館』が閉館」
また「震災」「節電」関連のニュースでは、2位の「東電のPR施設『電力館』が閉館」も見逃せません。電力館は、電力設備やエネルギーの基礎知識を総合的に学べる施設として昭和59年に渋谷・ファイヤーストリートに開館。渋谷で働く人びとの中には、無料で使用できる同施設を仕事の合間の息抜きに使っていた人も多かったのでは…。同施設は「東京電力グループ中長期成長宣言2020ビジョン」を踏まえ、これからのさらなる低炭素化社会に向けて原子力発電の必要性と安全性を訴えるため、3月20日に大規模なリニューアルオープンを予定していました。何の偶然か神の悪戯か、「原発の安全」を訴える同施設のオープンが、奇しくも原発事故によって葬り去られるとは…。5月末には同施設の閉館が正式に決定し、27年にわたった歴史に幕を閉じました。その後、被害者への損害賠償に充てるため、一等地に建つ同館の売却が検討されたものの、地下に変電所を備えていることから売却を断念。今後は店舗、事務所などのテナントの募集を検討していくそうです。
(左:閉館をお知らせする張り紙)
(右:電力館リニューアルイメージ「6Fの原子力コーナー」)

3位「岡本太郎の巨大壁画『明日の神話』に絵を付け足し−Chim↑Pomが声明」

続いて3位は「岡本太郎の巨大壁画『明日の神話』にちょい足し−Chim↑Pomが声明」。「アートに何ができるのか?」――3.11の東日本大震災後、多くのアーティストたちがこうした課題にぶち当たったのではないでしょうか。「アートの無力さ」を感じ、「これから自分たちは、どこに向かおうとしているのか?」と自問自答し、もがき苦しんだアーティストもきっと多かったに違いありません。たびたび10年前の「9.11事件」の惨劇と比較されることも多いですが、正直なところ、9.11を自分自身の胸に痛みを伴うほど、「身近な事件」として捉えている日本人はそう多くないでしょう。きっとハリウッド映画やおとぎ話を観てみるかのような、そんな現実味のない世界を垣間見ている気分に近かったのではないか。ところが、今回の「3.11」は全く違います。大きな津波は工場や家、車などをいとも簡単に押し流し、見覚えのある風景を一瞬で飲み込んでしまう。さらに放射能が追い打ちをかける。胸が張り裂けるようなほどの心の痛み、明日は我が身の心理状態の中で、「平和ぼけ」と揶揄されてきた日本人の常識やアイデンティティーは一変してしまったように感じます。それはアーティストたちも同じこと。

こうした中で、太平洋のビキニ環礁の米水爆実験によって、大量の「黒い雨」を浴びたマグロ漁船「第五福竜丸」を題材にした巨大壁画「明日の神話」は、今回の福島第一原発の事故の惨状とも重なる部分があります。燃え上がり、八方に身体が飛び散る骸骨を中央に、悪そうな顔つきのキノコ雲など、おどおどろしい世界が広がる同作品ですが、岡本太郎さんが伝えようとしたメッセージとは一体何だったのでしょうか。「明日の神話」というタイトルからも分かるように、過去に様々な過ちを繰り返してきた人類が、その失敗を乗り越えながら、次の世代にバトンをタッチし明るい未来の訪れを願う…という前向きな想いが込められています。いわば、「福島第一原発」も人類にとっては通過点の一つであると考えることが出来るかもしれません。チンポムが行った行為に賛否はあるものの、物議を醸し出すキッカケをつくった意義は大きく、歴史に残るパフォーマンスとして語り継がれるものになるのではないでしょうか。そのほか、トーキョーワンダーサイト渋谷では「アートの課題2011 −僕らはいま一体どこに立っているんだろう?」(2011年10月14日~11月30日)と題し、震災後のアーティストたちがゆくべき道について考える企画が行われました。「3.11」は私たちの思考、行動、文化、社会、そしてアートの世界さえも変える大きな転換点となったことがうかがえます。

4位「ナイキパーク改め『みやした公園』がリニューアルオープン」
物議といえば、4位 の「ナイキパーク改め『みやした公園』がリニューアルオープン」も大きなニュースでした。2010年5月にオープンが予定されていた「宮下NIKEパーク(当初のネーミング)」でしたが、路上生活者を追い出す形で公園をリニューアルすることに反対する声が強まり、建設計画の大幅な延期を余儀なくされました。その後、区は行政代執行を実施し全面封鎖して強行策に出た一方、「宮下NIKEパーク」への名称変更を撤回して「渋谷区立みやした公園」を存続することを発表。企業色を前面に出さない恰好で反対派の沈静化を図るなど、一部計画の見直しが行われました。当初計画から遅れること1年、今年の4月30日にようやくリニューアルオープン。クライミングウオール、フットサルコート、スケートボード場を設置する公園として生まれ変わりましたが、もともと計画していた華やかさは消え失せ、震災後というタイミングも合って大きな話題になることなく、この一年が過ぎ去ろうとしています。渋谷区、ナイキ、路上生活者の3者にともに、うま味のないところで着地をしてしまったような感が否めません。
(左:みやした公園内の広場)
(右:クライミングウオール)

5位「『渋公』復活−『C.C.レモンホール』のネーミングライツ契約満了で」
同じく名称変更では、5位の「『渋公』復活−『C.C.レモンホール』のネーミングライツ契約満了で」も話題になりました。2006年10月1日から5年間契約で、渋谷公会堂が「渋谷C.C.Lemonホール」という名称で運営されてきましたが、サントリーから契約更新がなく、結果的に「渋公」が5年ぶりに復活することに。ツイッター上では歓迎する声が目立ち、「渋公」という呼称が広く愛されていたことを改めて実感させられます。現在、区では 新しいネーミングライツスポンサーの可能性を検討しているようですが、次回、どこの企業が決まったとしても「渋谷公会堂○○○…」「渋公○○○…」など、「渋公」という名称をどこかに残すことをオススメします。
(左:大きなレモンの看板は既に外され、渋谷公会堂が復活)
(右:センター街入り口には、大きなバスケットボールと横断幕が設置)

6位「センター街に『バスケットボールストリート(通称、バスケ通り)』が誕生」

もう1つ、ネーミングといえば、6位に「センター街に『バスケットボールストリート(通称、バスケ通り)』が誕生」というニュースもありました。かつてセンター街は「チーマー」の出現に伴って「怖い」「汚い」というイメージが付きまとっていましたが、2005年ごろから商店街でパトロール隊をつくるなど、安全できれいな街づくりに積極的に取り組んできた経緯があります。ここ最近ではH&M、フォーエバー21、ZARAなどのファストファッションがセンター街に出店をするなど、徐々にイメージが回復しつつあることがうかがえます。こうした健全なイメージをさらに推し進めるべく、「バスケットボール=若者の持つ『情熱』『エネルギー』」と捉え、センター街入口からマクドナルド渋谷センター街店までの約150メートルの区間を「バスケ通り」と命名。若者たちの間では「センター」という呼び方が既に定着しており、「バスケ通り」という呼称がどこまで浸透していくのか…。ただ考えてみれば、「ファイヤーストリート」も「キャットストリート」も、「スペイン坂」も「オルガン坂」も、そうですが、渋谷は意外にヘンテコなストリート名が市民権を得ています。現在は違和感を感じるものの、あと5、10年後あたりにはギャルたちが「バスケで…」とごく普通に使っているかもしれません。

7位「『渋谷ヒカリエ』のグランドオープンが4.26に決定!」
次に7位は「『渋谷ヒカリエ』のグランドオープンが4.26に決定!」。「阪急メンズ館」「ルミネ有楽町店」のオープンなど、2011年は有楽町に注目が寄せられましたが、2012年は渋谷駅前にオープンする複合商業施設「渋谷ヒカリエ」が話題をさらいそうです。同施設の特徴は百貨店などの商業エリアのほか、1972人を収容できるミュージカル劇場「東急シアターオーブ」、様々なイベントや催しに対応する都内最大級のエキシビジョンスペース「ヒカリエホール」、若いアーティストの表現の場「クリエイティブフロア 8/(ハチ)」、さらには上層階にはオフィススペースが設けられ、「商業」「カルチャー」「ビジネス」の三位一体、三拍子揃った拠点として期待が寄せられています。かつて渋谷駅東口は、1956年に開業した「渋谷東急文化会館」をはじめ、ループ式の「都電ターミナル」、東急百貨店東横西館3階から飛び出す「銀座線」、六本木通りの上を走る「首都高速」など、近未来的な都市をイメージさせる最先端のエリアでした。ところが80年代以降になると、「センター街」「公園通り」を中心に若者たちの行動エリアは「ハチ公口」にシフトし、「東口」は主役の座をすっかりと奪われてしまいました。「渋谷ヒカリエ」のオープンは、元気を失っていた「東口」エリアに再び英気を取り戻す起爆剤となりそうです。(左:来年4月26日にオープンが決定した「渋谷ヒカリエ」)
(右:総席数1972席を持つミュージカル劇場「東急シアターオーブ」)

8位「Twitter、Facebookのクチコミ効果でイベント中止相次ぐ」

震災時に電話回線がパンクした際、Twitter、Facebookが安否確認や情報収集の手段として役立ったこと。さらに映画『ソーシャル・ネットワーク』の公開効果や「スマートフォン」の普及も後押しとなり、SNSユーザーの拡大が一気に進んだ年となりました。と同時にTwitterやFacebookのクチコミ効果が広告宣伝に利用される機会も増え、既存メディアをしのぐ影響力を持つようになってきました。中でも、2月18日に英・人気ロックバンド「レディオヘッド」の公式Twitterに、ニューアルバムの発売を記念して「渋谷 ハチ公広場 金曜日 18時59分」と日本語でツイート。ゲリラライヴや大型ビジョンでの映像上映などの臆測が流れ、ハチ公広場にはファンが殺到するという事態に。バズ・マーケティングにより、「ニューアルバムをPRしよう」と考えていた主催側の予想を遙かに超える反応から、安全面を考慮してやむを得ずイベントの中止を決定しました。また先日12月7日、韓国の人気グループSHINee(シャイニー)も、渋谷のパルコ前でニューアルバムの発売記念としてシークレットイベントを開く予定であったものの、ツイッターなどで噂が広がり、予想以上にファン集結したことからイベントの中止を余儀なくされたといいます。こうしたニュースからも分かるように、SNSの情報伝播の「速度」と「拡散性」は、既存メディアを遙かにしのぎ、大きな影響力を持つことがうかがえます。その一方で、一度流れてしまうと「風評被害」や「デマ」であっても、加速的に情報を広げてしまう可能性があり、最終判断はその情報を受信する私たちに委ねられています。2012年以降、SNSがどう進化していくのか、興味が尽きません。

(左:レディオ・ヘッド公式ツイッターのつぶやき)
(右:サプライズを期待するファンが殺到)

9位「ヴィレバン、ゲオなど、大手チェーンが遅まきながら渋谷へ進出」
10位「ノマドワーカー向けのシェアオフィスの出店加速」

そのほか、今まで郊外店を中心に展開してきた「ヴィレッジヴァンガード」(11月18日、渋谷宇田川店オープン)や「ゲオ」(10月14日、渋谷駅東口近くにオープン)など、大手チェーン店舗が次々に渋谷へ進出。さらにノマドワーカーを対象としたコワーキングスペース「JELLY JELLY CAFÉ(ジェリージェリーカフェ)」(6月27日、公園通りにオープン)、クリエーター向けの「co-ba(コーバ)」(12月1日、渋谷駅南口近くにオープン)、「ライトニングスポット」(11月1日、渋谷駅新南口近くにオープン)など、渋谷駅周辺でシェアオフィスのオープンが相次ぐなど、新しい働き方やライフスタイルを模索する動きが出始めています。来年オープンする「渋谷ヒカリエ」にはモバゲーを運営する「DeNA」、ライブドア、ネイバーなどを運営する「NHN」の入居が決まっており、渋谷には大手IT企業からシェアオフィスを拠点とするベンチャーや若き起業家まで、ポテンシャルの高い企業が集積し始めており、かつての「渋谷ビットバレー」を彷彿させる活気が徐々に甦りつつあるように感じます。

2011年の渋谷で起こったニュースを勝手にランキングしてみました。「大型街頭ビジョンの消灯」や「電力館の閉館」「明日の神話へのちょい足し事件」など、ランキング上位には3.11の東日本大震災の影響が色濃く出たものになりました。その一方で「『渋谷ヒカリエ』のグランドオープン」をはじめ、「ヴィレバン、ゲオなど、大手チェーンの進出」「ノマドワーカー向けのシェアオフィスの出店加速」など、新しい経済活動の動きも出始めています。来年は、明るいニュースが溢れる一年になることを切に願うばかりです。

<参考記事>
「独断と偏見で「2010年の渋谷」を振り返る」(2011年1月7日)
「ゆく渋谷ゼロ年代、くる渋谷10年代」(2009年12月29日掲載)

編集部・フジイタカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。

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