渋谷中央街・道玄坂一丁目エリアでは、カルチャーを起点とした新しい試みがさかんだ。その動きを代表するのが、渋谷中央街で活発に行われている音楽イベントであり、またアートを介在として人と人との交流を促す空間の出現である。クリエイティブな活動を通して進化を遂げる、このエリアの「今」を追った。
渋谷中央街は変わらぬ街並みを維持する一方で、新しい試みにも積極的に取り組んでいる。とくに、京王井の頭線渋谷駅西口改札付近のウェーブの広場前スペースを会場とした音楽イベントがさかんだ。クリスマスにはジャズイベントが恒例となっているほか、3年前には、「渋谷アコースティックライブ」、通称「渋アコ」も始まった。これはさまざまなジャンルのミュージシャンがアコースティックのライブを繰り広げるイベントで、毎年夏に開催されている。このイベントの代表者を務める安旨肉屋的惣菜居酒屋つくしんぼ」店長で、渋谷中央街・道玄坂一丁目の青年会で中心的な役割を務める坂入忠義さんは、「音楽イベントは誰にでも楽しんでもらえるし、多くの世代の人たちに集まってもらい、街の環境浄化を進められれば、という思いもありました。さらに、薬物乱用防止を多くの人々に訴えるのも狙いの一つです」と話す。
若い世代へのメッセージ
2005年と2006年は、1ヶ月間にわたり、約100組のミュージシャンがライブを行った。「できるだけ長期間開催したほうが、より強くアピールできると考えたので。本当は一年中やっていたいくらいです」と、坂入さんは話す。企画や運営は、坂入さんをはじめとした商店街の人々やアマチュアミュージシャンなどがボランティアで行っている。諸事情から3年目の2007年には1週間に短縮されたが、この年はゲストとして庄野真代さんが登場するなどし、例年以上の盛り上がりを見せた。今年も7月に開催される予定だ。「毎年、観に来てくださる固定ファンも増えてきました。商店街の青年会が中心となり、音楽イベントの他にも、もっと若い世代に渋谷中央街に目を向けてもらえるような取り組みを企画しています」と、坂入さんは意欲的に話す。
安旨肉屋的惣菜居酒屋つくしんぼ |
近年、このエリアでは、アーティスティックな動きも活発だ。クリエイターと企業をネット上でつなぐサービスを展開するロフトワークは、2007年、オフィスが入る道玄坂一丁目のビルの1階を改装して多目的スペース「loftwork Ground」を開設した。全面ガラス張りのスペースは、白を基調とした明るいインテリアでまとめられた約100平米の瀟洒な空間。このスペースではロフトワーク主催の各種イベントが行われるほか、主にクリエイターに無料で開放され、ワークショップやセミナー、ミーティング、またギャラリー会場としても使用される。iPodを用いるDJブースも備えられており、エンターテインメント系のイベントにも対応する。「これまでは主にネット上でサービスを展開していましたが、クリエイターの方々がリアルに出会う場所を作りたいという思いで開設しました。クリエイティブな活動の場として自由に使っていただければと思います」と、担当の小林利恵子さんは説明する。今後、「リアル」と「ネット」をつなぐ拠点として、ますますの活動の広がりが期待される。
多目的なカフェ兼ギャラリー
2003年に閉店したストリップ劇場「渋谷OS劇場」跡のビルをリノベーションして作られた異色のスペースが「Gallery Conceal Shibuya(ギャラリーコンシール)」。スタッフやアーティストにより築50年以上のビルが手作りで改装された、アンティークで優しい雰囲気の漂うカフェ兼ギャラリーだ。普段は写真や絵画などのギャラリーとして使用されるほか、プロジェクターや音響設備を備えており、パーティやライブの会場にもなる。店長の石井絢子さんは、「飲み物を持ってギャラリー内を歩き回り、アートを身近に感じていただける空間です。お客さまには『家で過ごしているみたいに落ち着く』と言っていただくことが多いですね」と話す。店内には作品の展示者がいることが多く、アーティストと客とのコミュニケーションの場にもなっているそうだ。同じビルの2階で営業されている系列の「tokyo salonard cafe : dub(トーキョーサロナードカフェ・ダブ)」にも、同様にアンティークな空間が広がる。
渋谷マークシティ4Fの「CSS クリエーションスクエアしぶや」も、人と人との交流を促す施設。ここは、NPOやサークル、企業など、渋谷に関わる活動をする人々が垣根を越えて交流することを意図して設けられた施設で、ミーティングスペースを自由に使えるほか、壁やプロジェクターを使った展示などもできる。近年、渋谷中央街・道玄坂一丁目エリアでクリエイティブな活動がさかんなのはどうしてだろうか。もともと若者の流行に縁の少ない土地柄だけに、周囲に左右されずに、独自の試みにチャレンジする気風が色濃いのかもしれない。こうした活動がどのように展開されていくのか、今後を楽しみに見守りたい。
loftwork Ground |
ギャラリーコンシール |
CSS クリエーションスクエアしぶや |
渋谷中央街のグルメといえば、「やきとり」戦後のヤミ市をルーツとして発展してきた渋谷中央街には、気取らず、かつ安くて、美味しい庶民の味が多々楽しめる。このエリアで忘れてはならないグルメといえば、一番に「やきとり」が挙げられる。渋谷マークシティと、京王井の頭線渋谷駅西口改札付近を挟むウェーブ広場周辺には、「鳥竹(とりたけ)」「鳥升(とります)」「山家(やまが)」等々、老舗のやきとり屋が軒を連ねている。いわば、道玄坂一丁目のシンボルは、やきとり屋から湧き出るもうもうとした「白い煙」と言っても過言ではない。中でも、ウェーブの広場から国道246号を向いた目の前にお店を構える「鳥竹」のやきとりは、肉厚で、さらに口に入れてひと噛みしたとたんに、ジュワと広がる肉汁の旨みは申し分ない。1本270円(やや価格が高めにも感じるが食べ応えがあり、十分に満足できる)。店頭には木製のカウンターが設けられ、店内に入らずともその場で、1、2本のやきとりを軽くつまむことができるのも良い。取材時にも立ち食いスタイルで、やきとりを楽しむお客さんの姿がしばしば目立った。
庶民に愛される新旧ファストフードが集まるエリア次なるお店は、リキスポーツパレスの取材でお邪魔した「そば・うどん たけや」。ウェーブの広場から国道246号へ向かって、真っ直ぐ100mほど進んだ先の渋谷中央街郵便局が目印。ちょうど郵便局の右隣に地下へ下る階段があり、そのB1にお店を構える。前述の通り、昭和の大ヒーローである力道山、修業時代のジャイアント馬場、アントニオ猪木らが足繁く通ったお店として知られる。そばのつゆは、よく出汁の利いた濃口で食欲をそそる。約50年ほど前、夢を持った若きプロレスラーたちが同じそばを食べていたのかと考えるだけで、なぜか得をしたような気になる。特におすすめはランチ時のタイムサービス。天丼セット(海老天丼、おそば、サラダ、お新香)1,000円、うな重セット(うな重、おそば、お新香)1,000円、かつ丼セット(ロースかつ丼、おそば、サラダ、お新香)900円・・・、そのボリューム感は十分。
さらに驚きの大きさといえば、2006年にオープンしたハンバーガー専門店「グルメバーガーPAKUTCH(パクッチ)」のパクッチバーガー(980円)。高さ10cmは優に超える大迫力なバーガーで、パンの間にはベーコン、アボカド、チーズがぎっしり詰まっているため、食べるときには上から十分に潰しながら食べなければならない。フォークとナイフでスマートに食べるのも良いが、手や口を汚しながら豪快にかぶりつくのも最高である。
和風ファストフード「やきとり屋」「そば屋」、さらに新生の「本格ハンバーガー店」など、庶民に愛される新旧ファストフードが混在するのもこのエリアの良さ。うまいものを求めて、街を散策してみるのも楽しい。
[KEYPERSON] Koyo Suwa (Corporation loft work Representative Director)
"Shibuya center street, Dogenzaka chome area" around Culture facility